インディ500日本人初制覇の佐藤琢磨凱旋。「最後は頭をフル回転させて戦っていた」
13日、日本人で初めてアメリカ最大の自動車レース、インディ500を制した佐藤琢磨の凱旋報告会が東京・青山のホンダ本社で行われた。佐藤は会場に詰めかけた多くの報道陣を前にレース終盤のエリオ・カストロネベスとのバトルの詳細やビクトリーレーンで飲んだミルクの味など、約1時間にわたって笑顔で語った。
今年、101回目を迎えたインディ500はF1のモナコGP、スポーツカーレースのル・マン24時間と並び世界三大レースと称される。佐藤は今から5年前、残り1周の時点でトップ争いを展開しながらクラッシュし、勝利を逃した。苦い思い出があったインディ500で今回、リベンジを果たした。残り5周、カストロネベスと展開したバトルについてこう振り返った。
「残り5周でトップに立ってからはいろいろなことを考えました。ここ数年、インディ500ではトップを走ってそのまま逃げ切ることが難しい。ドライバーの本音を言えば”最終ラップまで先頭を走りたくない”。そういう傾向があるんです。それなのに今回、5周を残してトップに出ていった。あのときはチームスタッフ、そして応援しているファンのみんなもすごく心配したと思うんですね。でも僕には勝算がありました。残り5周あれば、どんな状況でも自分で巻き返すことができる。頭はホンダエンジンと同じくらい、1万2000回転くらいフル回転していましたよ」
--12年にはトップ争いをしていて最後にクラッシュ。今年も危ないシーンが?
「最後、トップを争ったエリオは、インディで一番信用できるドライバーです。これまでいろいろな所で彼とバトルをしてきましたが、一度もぶつかったり、当たったりというアクシデントはない。だから思いきってクリーンにバトルを楽しむことができました。残り2周になってエリオが仕掛けてきましたが、そのときに彼は僕を抜かなかった。”これは抜きに行きたいのではなくて、行けないんだな”と思いました。そこからは予選のような走りで絶対にミスをしないように、マシンのリヤを滑らせないように集中して走りました。最後、(残り1周を示す)ホワイトフラッグが振られた後はバックミラーを1度も見ることなくチェッカーを目指しました。バックストレッチではエリオに後ろに付かれないようにラインを変えて走り、最終コーナーを抜けて加速したときに、ああ、このレースは自分たちが勝つんだと実感ししました」
--ゴール後、無線を通して叫び声が聞こえた。
「本当はすぐチームのみんなにありがとうと言いたかったんですが、言葉にならなかった。無線のスイッチが入っていることに気が付かずにヘルメットの中で叫び続けていました。あれが僕の純粋な気持ちを表しています。インディに挑戦し続けて夢が叶った瞬間です」
--表彰式で飲んだミルクの味は?
「ウイニングランを終えて戻ってくると去年まで所属していたチーム(AJフォイト)のクルーが全員、ピットウォールを越えて出迎えてくれたので全員とハイタッチしました。そしてもちろん今年から所属しているアンドレッティ・オートスポーツ、彼ら全員の笑顔も忘れられません。そして、牛乳は最高の味でした!」
インディ500を含むシリーズ戦「インディカーシリーズ」は、この後、9月まで続く。佐藤は現在、シリーズランキングで3位に付けている。
「チームが得意とするハイスピードなオーバルコースは残り1戦しかないのでチャンピオン争いでは苦労すると覚悟しています。ただこの後、1勝か2勝をあげて、他のレースでコンスタントにポイントを稼げば、もう一度、こうやってまたみなさんにいい報告(シリーズチャンピオン)ができるんじゃないかと思っています」
インディカーシリーズ最終戦は9月17日、カリフォルニア州ソノマで開催される。アメリカから2度目の吉報が届くのを待ちたい。