2019年ラグビーW杯日本大会開幕まで、残り2年ちょっと。組み合わせも決まり、日本代表は強化に余念がない。

 

 

 6月、日本代表(世界ランキング11位)は1次リーグで同じA組に入ったアイルランド代表(同3位)を招き、テストマッチを行った。

 

 17日の初戦は22対50。24日の2戦目は13対35。ともに完敗だった。

 

 しかも来日したアイルランドは主力を欠く、いわば「1・5軍」。ヘッドコーチのジェイミー・ジョセフは「ティア1(トップレベルの強豪国)との差は明確」と課題を口にした。

 

 そんな中、存在感を存分にアピールしたのが身長196センチのロック、トンプソン・ルークだ。

 

「(第1戦は)死に物狂いで勝ちにいく気持ちがなかった」とジョセフ。打開策として第1戦終了後にトンプソンを招集した。

 

 目を引いたのは3分のプレー。敵陣で強烈なタックルを相手に見舞って、ボールを奪取した。その後、味方がパスをインターセプトされたため、得点には結び付かなかったが、身体を張ったプレーでチームを奮い立たせた。

 

 スポーツ専門局のESPNによれば、トンプソンのタックル成功数は26回。これは両チームトップの数字だった。

 

 これにはアイルランド代表ヘッドコーチのジョー・シュミットも「タックルの精度が素晴らしい。やはり大きな存在だと思った」と最大級の賛辞を送っていた。

 

 36歳のベテランにとって、今回は15年10月以来の代表復帰だ。大野均、真壁伸弥らロック陣の負傷離脱により、おハチが回ってきた。

 

 ジョセフは「彼の経験や能力を考えると他に選択肢はなかった」と招集理由を説明した。指揮官の判断が間違っていなかったことは試合後に証明された。

 

 ジョセフのコメント。

「今回、トンプソンを招集した時には前向きでない反応があった。たとえば“彼は年寄り過ぎていてプレーできない”という声も。しかし、今回のパフォーマンスで世界レベルのロックだということを、しっかり確認することができた」

 

 南アフリカを破るなど3勝をあげた2015年W杯イングランド大会。「日本ラグビーの歴史を変えた」と言われる大会において、トンプソンのパフォーマンスは圧巻だった。

 

 専門誌の『ラグビーマガジン』の読者投票ではキャプテンでフランカーのリーチ・マイケル、フルバックで大会ベストフィフティーンの五郎丸歩を抑えて、堂々のMVPに選ばれた。彼のチームへの献身ぶりは際立っていた。

 

 1年8カ月ぶりにジャパンのユニホームに袖を通したトンプソンだが、依然として彼に対するチームメイトの信頼は厚い。

 

 アイルランド戦でゲームキャプテンを務めたリーチは「すべてを出し切ってプレーしてくれる選手」と全幅の信頼を寄せている。

 

 もっとも、本人の頭の中には2019年のことはないようで、「(代表入りは)今回だけ」と答えるにとどまった。同じニュージーランド人の指揮官が放っておくとは思えない。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2017年7月16日号に掲載されたものです>

 


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