このコラムでは何回か取り上げているが、かつてスペイン代表にアンドニ・ゴイコエチェアというタフなDFがいた。どれほどタフかというと、試合前に「必要ならばあいつの足をへし折ってやる」と宣言し、実際にマラドーナの左膝に全治3カ月の重傷を負わせてしまったぐらい、タフだった。

 

 ホメられたことではもちろんないし、わたし自身、彼のことを世界最悪のDFの一人だと思っていた時期もある。

 

 だが最近、ちょっと気持ちが変わってきている。ルーカス・ポドルスキが神戸にやってきてからは。

 

 ケルンの伝説にして74年W杯の英雄オベラートに言わせると、「ここ20年でドイツが生んだ最高の才能」だというポドルスキ。いささか身びいきがすぎると思わないこともないが、このポーランド出身のストライカーが世界でも屈指の存在であることは間違いない。

 

 それでも、日本のDFたちには意地を見せてほしい。

 

 足をへし折れ、というわけでは断じてない。だが、本人の自伝を読んでもわかるように、若いころのマラドーナはスペイン人、スペイン・サッカーへの侮蔑を隠そうともしない人でもあった。ゴイコエチェアからすれば、旧植民地からやってきた若造になめられてたまるか、という思いもあったのだろう。スペインを嘲笑するアルゼンチン人が珍しくないように、南米人を侮蔑するスペイン人もまた、珍しい存在ではない。

 

 「キャプテン翼」のファンだというポドルスキに、日本を下に見る意識はあるまい。ただ、決して動きがよかったとは言えないデビュー戦での2ゴールを、ドイツのメディアの中には日本サッカーのレベルの低さゆえ、と伝えたところがあったと聞く。今後も彼がゴールを量産していくようなことがあれば、記事を書いた記者とそれを読んだ読者の日本に対するイメージは、固定化されていくことだろう。

 

 ケルンからキャリアをスタートしたポドルスキは、神戸にやってくるまでにクラブでは377試合、代表では130試合に出場し、それぞれ134点、49点をあげている。率に直せば、どちらも30%半ばの得点率で、それは、2シーズンを過ごし、出場56試合で20得点をあげたガラタサライでも変わらなかった。

 

 つまり、トルコのDFたちは、ポドルスキにアベレージ以上の仕事はさせなかったのである。

 

 かつてJリーグで得点王を獲得したオルデネビッツは、ドイツへ帰国後、自分がタイトルをとれたのは日本のレベルが低すぎたからだ、とコメントしたことがある。まだW杯本大会に出場したことのなかった日本人は、その言葉を甘んじて受け入れるしかなかった。

 

 いまや時代が違う。いや、違うはずだと信じたい。

 

 次節は柏。その次は鹿島。ポドルスキと対峙するDFたちよ、奮い立て。彼の成績をアベレージ以下に封じ込めることができれば、それは日本サッカーの実力を証明することにもなる。

 

<この原稿は17年8月3日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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