現地時間13日、8日間行なわれる世界卓球選手権(個人戦)パリ大会が開幕した。卓球NIPPON(日本代表の愛称)からはロンドン五輪女子団体銀メダリストの福原愛(ANA)、石川佳純(全農)、平野早矢香(ミキハウス)や、同五輪男子代表の水谷隼(beacon.LAB)、丹羽孝希(明治大)ら男女16名の代表たちが世界へと挑む。前回のロッテルダム大会では、全5種目の金メダルを中国が持ち帰った。昨夏のロンドン五輪でも全4種目で金メダルを総ナメ。卓球NIPPONにとって、“打倒中国”が至上命題である。近年、団体やダブルスではメダルを獲得しているが、シングルスでは男子が34年、女子が44年遠ざかっている。悲願の表彰台へ向け、本日からいよいよ本選がスタートする。
 シングルスは男女ともに日本のダブルエースの活躍に期待がかかる。
 女子は、前回女王の丁寧、ロンドン五輪金メダリストの李暁霞らを擁する中国勢が頂点に君臨している。対する日本のエースは、かつて“天才少女”と称された福原と石川だ。

 福原は、1月の全日本選手権を連覇し、右ヒジの故障から完全復活を果たした。本人も「大きな自信となった。もっともっと強くなりたい」と、今回の世界選手権へ向け、貪欲な姿勢を見せていた。卓球を始めて20年が経つ福原にとって、パリは初めて世界選手権に出場した思い出の地である。10年前、14歳の天才少女はシングルスでベスト8入りを成し遂げた。混合ダブルスでは前回大会で銅メダルを獲得したものの、シングルスの最高位はベスト8のまま。現在、24歳となり名実ともに日本のエースとなった福原が、世界デビューの地で新たなスタートを切る。得意の強烈なバックハンドは世界を相手にしても通用する。あとは、苦しい場面をどれだけ凌げるか、強豪相手には我慢の展開が続くだろう。台上での粘りが、1969年のミュンヘン大会以来のメダル獲得のカギを握る。

 その福原に全日本選手権決勝で敗れた石川も負けてはいない。4年前の横浜大会では8強入りを果たし、メダルまであと一歩と迫った。しかし北京五輪金メダリストで当時世界ランク1位の張怡寧(中国)に準々決勝で敗れ、日本人女子40年ぶりの表彰台には届かなかった。ロンドン五輪では初出場ながらシングルスで4位に入る大健闘を見せた。現在、世界ランクは日本人トップの8位。今大会は第7シードに入り、準々決勝から世界ランク上位勢とぶつかる可能性が高い。五輪と違い世界選手権は3位決定戦を行わないため、自己最高のベスト4進出がメダル獲得となる。4月に行なわれたITTF(国際卓球連盟)ワールドツアーの韓国オープンでは準優勝、アジアカップでは3位に入っており、調子は良い。2月に20歳となったレフティーが、旋風を巻き起こすか。

 一方の男子は、女子同様、中国勢の表彰台独占も有り得る。現世界王者(ロッテルダム大会、ロンドン五輪金メダリスト)の張継科、世界ランク1位の許などを揃え、第4シードまではすべて中国勢が入ってる。対抗は、前回大会3位のティモ・ボル、ロンドン五輪銅メダリストのドミトリ・オフチャロフなどがいるドイツか。そんな中、日本勢ではともにレフティーの丹羽と水谷に注目が集まる。

 丹羽は全日本選手権ではゲームカウント1−3の劣勢から大逆転、第一人者の水谷を破っての初優勝を果たした。直後のインタビューで「まだ日本のエースだとは思っていない。この1年で証明していきたい」と語っていただけに、この世界選手権でまずはその一端を示したい。所属するドイツ・ブンデスリーガでは負けが続いているが、昨年の五輪アジア予選で世界ランク1位(当時)の馬龍を撃破するなど、大番狂わせを演じている。本人も今大会に向けて、「中国人を1人でも多く倒したい」と打倒中国を誓っていた。エースの継承は、宝刀“チキータ”を武器にパリで証明する。

 水谷は、現在世界ランク日本人最高の10位。“補助剤”問題を訴え、一時国際大会を離れていたが、2月のクウェートオープンから復帰した。全日本選手権では決勝で丹羽に敗れたが、日本卓球リーグ・ビッグトーナメントで雪辱を果たして優勝。徐々に復調の兆しを見せている。世界選手権は団体戦と合わせて9回目の出場。シングルスはロッテルダム大会のベスト8が最高である。“補助剤”問題も、このまま眠らさせるつもりはない。世界大会できっちり結果を残し、自らの発信力を高めたいところだ。

 近年、世界選手権のシングルスでは結果を残せていない日本だが、ダブルスでは健闘していると言っていいだろう。ロッテルダム大会で福原、岸川聖也(スヴェンソン)組が銅メダル、男子ダブルスでは、横浜大会で水谷、岸川組が銅メダルを獲得している。

 今大会でも、この2組に加え、男子では、丹羽と松平健太(早稲田大学)のペアへの期待は大きい。全日本選手権を制し、勢いに乗る名門青森山田高出身のペアが世界に挑む。松平は兄の賢二(協和発酵キリン)と妹の志穂(四天王寺高)も出場し、3きょうだいでの同時代表は史上初。話題性だけでなく実力で名前を売りたい。女子ダブルスでは福原、平野のロンドン五輪団体銀メダリストのペアに注目が集まりがちだが、全日本選手権4連覇中の藤井寛子、若宮三紗子組(日本生命)にメダル獲得の可能性は十分にある。藤井、若宮組はロッテルダム大会で準々決勝で香港のペアに1−4で完敗だった。若宮は「2年前は悔しい思いをした。今回は笑顔で終われるようにしたい」とリベンジに燃える。7歳上の姉貴分・藤井は「気持ちで負けてはいけない。勇気を持って戦いたい」と抱負を語っていた。所属先も一緒でコンビネーションも抜群の女子最強ペアが、同種目12年ぶりのメダルへと邁進する。

(杉浦泰介)