「こすったのでどうなるかなと思ったんですが、かなり伸びてくれたのでよかったなと思います」

 

 さる7月21日、西東京大会5回戦の法政高戦で高校通算106号を放った早実・清宮幸太郎のコメントである。

 

 

「こすった」当たりが神宮球場の右中間スタンドに飛び込むのだから生粋の長距離砲だ。

 

 ホームランバッターはボールのやや下っ面を叩く。逆回転のスピンをかけることで打球は放物線を描く。この高等テクニックを、彼は18歳にして身に付けているのだから大したものだ。

 

 清宮を松井秀喜になぞらえる向きが多い。清宮が柔なら松井は剛だろう。パワーでは松井が一枚上だが、高校3年時のテクニックでは清宮の方が上回っているかもしれない。

 

「ホームランバッターは育てられない」

 知将・野村克也の口ぐせである。ボールを遠くへ飛ばす能力は多分に持って生まれたものだというのだ。その意味で清宮は、間違いなく10年、いや20年にひとりの逸材だろう。

 

 私が初めて彼のプレーを見たのは今から5年前の夏である。舞台はリトルリーグの全日本選手権。清宮は東京北砂リトルの「3番・投手」で出場していた。

 

 13歳の中学1年生ながら身長183センチ、体重94キロの偉丈夫。まるで子供の中に、ひとり大人が混じっているような印象を受けた。

 

<素質は突出している。投げては130キロ台の直球をびしびし決める。打っては典型的な左の長距離砲。芯に当たった打球は虹のような放物線を描く>(『日経ビジネス』2012年10月29日号)

 その時に書いたコラムの一部だ。

 

 高校卒業後、すぐにプロ入りしたとして、さて彼はどれくらいホームランを打てるのか。入ったチームにもよるが私は15本前後だと見る。ちなみに松井は11本。清原和博は31本。その間くらいではないか。

 

 では課題は何か。早実の先輩にあたる元横浜監督の大矢明彦は“捕手目線”で語る。

「大事なのは選球眼。高校野球のピッチャーは真っすぐを主体に正々堂々と攻めてくるがプロのピッチャーは変化球主体。インハイを突きながら揺さぶってくる。いかに自分の打てる球を見極められるか。そこにかかっている」

 

 要するにプロのピッチャーの攻め方に慣れるのに、どれくらい時間がかかるか。1年か2年か3年かという問題である。いずれにしても“和製大砲”は希少な資源。夢は大きくベーブ・ルースを目指してもらいたい。

 

<この原稿は2017年8月18日・25日合併号『漫画ゴラク』に掲載されています>

 


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