日本代表はライバルのオーストラリアにホームで勝利してアジア最終予選B組1位を決め、来年のロシアワールドカップ出場を決めた。同予選初戦のホーム、UAE戦で敗れて最悪のスタートを切ったものの、持ち直して突破したことは称賛に値する。

 

 何より驚かせたのはヴァイッド・ハリルホジッチ監督の大胆な選手起用である。

 スターティングメンバーはケガ明けの香川真司、本田圭佑、そして本調子ではない原口元気、久保裕也が外れ、エイバルでレギュラーを張る乾貴士、快足の持ち主である浅野拓磨、そして21歳のダイナモ・井手口陽介が起用された。

 

 2日間の戦術トレーニングで前線のメンバーはいろいろと試され、中盤のインサイドハーフも山口蛍と柴崎岳どちらかで指揮官は迷っていた節がある。ただ、井手口はレギュラー組でずっとテストされていたようで、彼の起用自体は決めていたと思われる。その期待に応え、4-3-3の左インサイドハーフに入った井手口は出足鋭いプレッシングでオーストラリアにボールをつながせず、攻撃に転じれば積極的に前に出ていった。最後まで運動量が落ちない中、後半37分に豪快なミドルシュートをゴールネットに突き刺した。オーストラリアの息の根を止める一発だった。この試合のMOM(マン・オブ・ザ・マッチ)は、やはり井手口だろう。

 

 ハリルホジッチ監督が求める要素を、井手口はすべて持っている。

 決闘を意味する「デュエル」、運動量、テクニック、そしてミドルシュートのパンチ力。バチバチのファイトをいとわず、しつこく守備ができる一方で、ボールを持っても展開力、前への推進力がある。大一番でセットプレーのキッカーも任されたことからも、指揮官の期待は大きかった。ハリルホジッチ監督がボランチに求める要素として、ミドルシュートの割合は決して小さくない。絶大な信頼を寄せる長谷部誠に対しても、「ミドルシュートをもっと打ってほしい」と要求している。その点からも積極果敢に打つ井手口は、大好きなタイプだと言える。

 

 この日のボール支配率は38・4%。つまりボールを持っていないときに、どれだけ貢献できるかが重要になる。プレッシャーを掛け続け、奪ったら速攻。戦術を遂行するには、まさにこの井手口がキーマンだったのだ。

 

 井手口は6月のアウェー、イラク戦で代表デビュー2戦目にして初先発を果たした。後半途中に後頭部を強打して脳しんとうの疑いで途中交代し、本人にとっても悔しさが残った。

 

 イラク戦が終わって、指揮官に井手口のことを尋ねたことがある。ハリルホジッチ監督はこう語っていた。

「井手口はトレーニングからいいパフォーマンスを見せていた。コーチに聞いても、みんな評価していた。ケガがなければ交代させるつもりはなかった」

 

 その後も彼は井手口に注目し、オーストラリア戦、サウジアラビア戦のメンバーリストに名前を入れた。メンバー発表会見ではこのように語っている。

「井手口はここ最近も、(ガンバ大阪で)ずっと安定したプレーを見せている。我々は(1試合ごとに)選手を評価しているが、スタッフからも常にかつ最も高い評価を受けている。ボールを奪いにいけるし、積極的にデュエルにいけるタイプで、ボールを持ったら右足でも左足でもパスが出せる。若い選手に自分を表現する場を与えることに関して、私は恐れていない」

 

 メンバー発表時から井手口の先発起用を示唆しているようにも聞こえてくる。最近のパフォーマンス、コンディションを踏まえたうえで、井手口の存在が指揮官の中で大きくなっていたことがうかがえる。

 

 井手口の活躍は、国内組にもいいメッセージとなった。

 W杯メンバー入りの戦いは始まっている。海外組も国内組もなく、全員が横一線。井手口に続く、ニューヒーローの台頭をハリルホジッチ監督は心待ちにしている。


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