交流戦も残すところ、あと1週間。パ・リーグがセ・リーグに大きく勝ち越す中、東北楽天が球団創設以来、初のタイトルを狙える位置にある。現在、13勝7敗で首位の福岡ソフトバンクと0.5差。リーグ戦でも貯金7でトップを走る千葉ロッテに2差まで迫っている。そんなチームを牽引するのがキャッチャーの嶋基宏だ。守備では無失策で、盗塁阻止率はリーグ2位の.341。打撃でも打率は3割を超え、得点圏打率.392はリーグ5位だ。まさに扇の要の役割を果たしているリーダーに、今季の楽天好調の理由を二宮清純が訊いた。
(写真:ピッチャーには「真心」と「愛情」を持って接するのがモットー)
二宮: このところチームは調子がいいですね。その要因は?
: やはりチームの柱がしっかりしたことでしょう。投げるほうではエースの田中将大、打つほうでは4番のアンドリュー・ジョーンズ。このぶれない柱があることで周りの選手もうまく機能しているのではないかと感じます。

二宮: エースのマー君(田中)はここまで無傷の8連勝。今季はどこがいいのでしょう?
: うーん。正直、2年前に19勝した時に比べれば、絶好調ではないと思います。その分、丁寧に投げているのが、勝てている要因ですね。WBCなどで経験も積んで、もう勝負どころが分かっていますから、ここぞというところで抑えられているのが結果に出ています。

二宮: WBCで磨きをかけたカーブも有効に使えていますね。
: そうですね。どうしても田中はスライダーやフォークといった速い変化球に頼ってきたので、目線を変える意味でカーブは大事だと思います。

二宮: リード面では入団から当時の監督だった野村克也さんから厳しく指導を受けてきました。ベンチで立たされて説教されたり(苦笑)、大変だったでしょう?
: 時には心にグサッとくることもありましたね。でも、今になってみるとプロに入って、いい勉強ができたと感謝しています。ベンチに座っていても、野村さんが後ろから話していることはだいたい当たる。「次、走るぞ」とか、「今度はこの作戦でくる」とか。最初は「なんで、分かるんだ」という感じでしたね。いろいろなところを観察して視野を広げることが大事なんだなと気づかせてもらいました。

二宮: 今の星野仙一監督も四球を出したり、弱気なピッチングを嫌います。バッテリーには厳しい監督ですね。 
: 野村さんとはタイプが違って、これもいい勉強になっています。ただ、監督も言っていますが、最終的にはチームが勝たないといけない。監督、コーチを納得させるためにやっているわけではないので、ピッチャーがしっかり抑えて勝ちにつながることを最優先に考えていますね。

二宮: これまでリードを褒められたことは、ほとんどない?
: 野村さんの時はたまにあった気がしますが、ほとんど記憶にないですね。星野さんには、つい最近、甲子園の阪神戦で完封勝ち(5月29日、2−0)した時に「よう粘った」と声をかけてもらいました。8四死球で毎回のようにランナーが出て、どこかで1本、ヒットを打たれていれば完全な負けゲーム。「もう打たれたら仕方ない」といい意味で割り切ってリードできました。もしピシャとゼロに抑えていたら、丁寧に慎重に、という気持ちになっていたはずなので、かえって良かったのかもしれません。

二宮: 攻撃でも嶋さんの打順は7、8番でほぼ固定されています。それが打率アップにつながっているのでしょうか。
: 打順は関係ないと思いますが、キャッチャーはどうしても守りが第一になるので、下位のほうが多少はやりやすいのかもしれません。

二宮: 2010年に打率.315をマークしたのに、翌年は.224と落ち込みました。その原因は?
: まずボールが統一球になって、過剰に意識し過ぎてバッティングを崩してしまいました。3割を打った翌年だったので、より丁寧に打とうと思ったのも裏目に出ましたね。思い切っていけない打席がすごく多くなってしまったんです。

二宮: 今季は、そのあたりの迷いも吹っ切れたと?
: 昨季、デーブ(大久保博元)コーチからも「甘い球なら初球から逃さずに打っていけ」と言われていました。もう1度、バットを振る大切さを再確認できたことが良かったです。

二宮: 交流戦の優勝はもちろん、リーグ優勝も十分狙える位置です。チーム内でも今までのシーズンとは違った手応えがあるのでは?
: チームの雰囲気は、僕が入団してからでは一番いいと感じます。これまでの楽天は、どうしてもひとつ負けるとチーム全体が暗く落ち込んでしまってガタガタ崩れてしまう面がありました。でも、今季は何より僕たちが「今年は行ける」という自信を持っています。だから、連敗しても、いい意味で前向きに切り替えて次の試合に臨めているんです。やはり、チームが勝って、みんなでハイタッチして喜んでいる時が一番うれしい。この先も、そういう試合をたくさん増やしていきたいですね。

<現在発売中の講談社『週刊現代』(2013年6月22日号)では嶋選手の特集記事が掲載されています。こちらも併せてお楽しみください>