皆さん、こんにちは。12月のこの時期、プロ野球界はFA選手の動向や契約更改のニュースで賑わってます。しかし、その一方で選手が大量に解雇される時期でもあります。今年も100人以上の選手が戦力外や解雇通告され、これからどうするのかと悩んでることでしょう。そのほとんどの選手が「まだ野球をやりたい」「やり残したことがある」「まだ自分はできる」と信じ、セカンドキャリアのことは後回しにして、野球で生きていく道を模索していることだと思います。


 その昔、トライアウトなどなく、独立リーグもなく、プロアマ規定も緩和されていない時代は引退後に社会人野球でプレーできるわけもなく、解雇はすなわち野球を完全に辞めることでした。大学に入り直し教員免許を取り、2年間教壇に立って、高校生を指導するという人はほんの一握りしかいませんでした。

 

 現在は自由契約になった後も野球を続けられる選択肢がいくつもあるし、学生野球資格回復制度の研修を3日間真面目に聞いていれば高校生を指導できるようになります。昔のように引退したら即一般社会で職探しという環境ではなくなっていますが、それが果たしていいことなのかとても疑問に思っています。

 

 今回は選手にとって最後の砦であるトライアウトについて書こうと思っていますが、以下のことはあくまで私の個人的な意見だと捉えて下されば幸いです。

 

 私は常々「トライアウトを行う意味が本当にあるのか」と考えていています。それはなぜか? プロ野球のチームには編成部があり、そこにはファームの試合をチェックする担当者がいます。そのファーム担当者は常にグラウンドに行き、試合を見て、相手チームの選手のデータを取り、自軍にとって脅威になりうる選手なのか、脅威になる選手がいれば何が脅威になるのか、どう攻略するのかなど多角的に分析し、1軍に報告するのが主な仕事です。

 

 当然すべての選手のデータを取ってるので、使える選手、使えない選手の振り分けは明確になっていて、解雇が発表された段階で「あの選手はまだ使える」「ウチのチームに必要な選手」、逆に「彼は足は速いけど使えない」「球は速いけどバッターに見やすいフォームだから使えない」などチームにとって戦力になるかならないかの判断がされている筈です。そのデータがあるにも関わらず、トライアウトを行う意味とは何でしょうか?

 

 もしチームに編成の人間がいなくて、解雇された選手の情報がほとんどない状況であれば、トライアウトを行う意味は大いにあると思います。「もしかして戦力になる選手がいるかもしれない」「ファームから情報は聞いてるけど、実際に見てから決めよう」など「掘り出し物探し」の感覚でトライアウトを見に行くことでしょう。

 

 しかし前述のように選手の情報をすべて把握できる環境があり、データも揃っているはずなのに、わざわざトライアウトを行う意味が私にはどうしても見出せません。私が経営者なら「編成は何をやっているんだ?」「グラウンドに遊びに行っているのか?」「なんでわざわざトライアウトを見に行くんだ?」と叱責するところです。トライアウトを見に行くだけでも経費がかかりますから、経営側から言えば当然の主張ですよね。コストカットを考える必要がないプロ野球界だから仕方ないのかも知れませんが、選手のセカンドキャリア支援を行うようになってから、その気持ちは一層強くなりました。

 

 お涙頂戴はもう結構

 ここ数年、セカンドキャリア支援のお手伝いがしたいと思い、私もトライアウトの現場に足を運んでいます。でも、トライアウトはある意味で報道のためのイベントになっている気がしてなりません。お涙頂戴番組のカメラが選手を追い回し、ネタ探しのための記者がぞろぞろといる。今年も同じ光景が繰り広げられていました。

 

 ある選手は今年のテレビ番組で「野球はもういいんです。自分がこの会社のアスリート第一号としてモデルケースにならないといけない。だから頑張ります」と言っていたにも関わらず、トライアウトを受けにきていました。他人の人生だからとやかく言うのは筋違いかもしれませんが、「もういい」と公言したらなら男として貫き通して欲しいものですね……。

 

 トライアウトの現場に来ている会社以外にも、私たちと同じようにキャリア支援をしたいと考えている企業を何社も知っています。担当者に会って話をすると、ほんと皆さん真剣に選手のセカンドキャリアを支援したいと考えています。しかし、そういう真面目に支援をしたいと考える企業がある一方で、「頑張ればすぐに1000万円稼げるよ」と甘い言葉で釣る企業があるのも事実です。世の中、そんな甘いものじゃないし、そんな言葉に簡単に釣られるような人間を作ってきた野球に関わっている大人たちは反省すべきですよね。

 

 少し話が逸れましたが、トライアウトに話を戻しましょう。私見を述べればトライアウトを実施するよりも、自由契約や解雇通告が出たときに他チームでやりたい意思があるならその情報を全球団に流し、その情報を見た他チームから期限内に連絡が来るようにする。その連絡を受けてキャンプに参加して合否を決め、連絡がなければ引退。そうしたルールを作る方がよほど建設的であり、余計な経費もかからず、変に選手に気を持たせることもなくなるのにな、と一人で考えたりします。師走で寒さが厳しくなってくると、妄想も激しくなる季節ですね(苦笑)。

 

 では、みなさん今年も1年間お付き合いありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。

 

 

1600314taguchi田口竜二(たぐち・りゅうじ)
1967年1月8日、広島県廿日市市出身。
1984年に都城高校(宮崎)のエースとして春夏甲子園出場。春はベスト4、夏はベスト16。ドラフト会議で南海ホークスから1位指名され、1985年に入団し、2005年退団。現在、株式会社白寿生科学研究所人材開拓グループ長としてセカンドキャリア支援を行なっている。

◎バックナンバーはこちらから