(写真:RIZIN初参戦の五味。国内団体のリングに上がるのは8年ぶり)

「頑張ります……。いいコンディションでやれるようにしっかり練習します。それだけかなぁ」

 

 11月29日、東京・恵比寿にあるウェスティンホテルで開かれた『RIZIN FIGHTING WORLD GRAND-PRIX 2017(12月29・31日、さいたまスーパーアリーナ)』の追加対戦カード発表記者会見。矢地祐介(KRAZY BEE)との対戦が決まった五味隆典(東林間ラスカルジム)は、その席上で、力無く、そうコメントした。精気が感じられない。

 

(やりたくないなぁ。でも仕方ないか……)

 そんな雰囲気を醸し出していた。

 

 RIZINのリングで3試合連続KO勝ちを収め絶好調の矢地に対して、五味はオクタゴンの中で5連敗(すべて一本またはKO負け)と下り坂。過去に積み上げた実績から、知名度では上回る五味だが、現在の実力と勢いでは、矢地に劣っている。この状況下での闘いのテーマは「世代交代」。つまり、五味を踏み台にして矢地がスターダムにのし上がっていく試合であると多くのファンは見ている。五味にとって喜ばしいカード決定ではなかった。

 

 五味は、こうも話した。

「(RIZINから)お話をいただいて有難いんですけど、すぐにという気持ちにはなれなかった。オファーを受けるのであれば、きっちりとトップクラスの練習をやれるかどうかを試して、そのうえでと思い(決断まで)時間がかかりました。でも、お話をいただけるうちに挑戦しようと思うようになり試合を受けました」

 

 2000年代前半、五味は『PRIDE』のリングで輝いていた。天下無双の火の玉ボーイは、ハウフ・グレイシー、ルイス・アゼレード、川尻達也や、桜井“マッハ”速人らを相手にKOの山を築き、超満員の観衆を熱狂させ続けた。そのシーンは、いまも脳裏に焼きついている。

 だが、PRIDE消滅以降、輝きを失っていく。『戦極』『UFC』へと闘いの舞台を移す中で黒星が先行するようになり、中量級トップ戦績から脱落していったのだ。

 

 五味が輝きを失った理由

 

 年齢を重ねる中で肉体的にピークを過ぎたのだから、それは仕方のないことと見る向きもある。でも、五味が輝きを失った理由は、それだけではないと思う。

「トップクラスの練習」という言葉を五味は口にしたが、それができていなかったからではないか。

 

 PRIDE時代、木口道場に所属していた五味は、試合の1週間前には必ず極限まで肉体を追い込んでいた。

 

 木口宣昭氏が考案した「木口式サーキットトレーニング」。

 これは、腕立て伏せ、腹筋、ジャンプスクワットといった基礎体力や強化トレーニングに加えて、スパーリング、スローイングダミーを用いての練習などを組み合わせて、1時間近くぶっ通しで動くというもの。それも通常時よりも、さらに負荷をかけて行う。

 

 すでに疲れがピークに達しつつある中で五味は、時に涙を流しながら肉体をトコトン苛め抜き、終わるとマットの上でぶっ倒れていた。そして言ったものだ。

「木口先生のトレーニングは欠かせません。やり切ったことが自信になるんです。肉体にも精神的にも絶対的な自信を持ってリングに向かうことができる」

 

 だが独立して以降の五味は、極限まで肉体を追い込むトレーニングに対峙することができなかった。環境の変化も大きかったのだろう。それほどまでにつらいトレーニングなのだ。肉体と精神に絶対的な自信を宿せなかったことが、五味が低迷した最大の理由のように思う。

 

 五味vs.矢地。

 予想をすれば、矢地が優位だ。

 

 それでも、PRIDEに熱狂した者は、五味に肩入れする。あの記者会見での精気の無さが、矢地や周囲を欺くための芝居であり、実は、やる気満々でいま肉体を極限まで追い込んでいるのではないかと期待してしまう。

 

 2年前の桜庭和志×青木真也戦を観た後のような切ない気持ちは、味わいたくない。

 

近藤隆夫(こんどう・たかお)

1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊は『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)。

連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)


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