フランス前とフランス後。初めてのW杯を経験したことで、日本サッカー界は劇的に変わった。永遠に届かないのでは、と思うこともあったW杯への出場はごくごく当たり前のこととなり、28年間遠ざかっていた五輪では本気でメダル獲得が望まれるようになった。

 

 日本サッカーに突然才能が出現したわけではない。いわゆる暗黒時代にも、将来を嘱望される選手はいまと変わらないペースで出現していた。バルセロナ五輪の予選で完敗したメンバーには、名波や沢登といった顔ぶれも含まれていた。それでも、いかんともしがたい力の差を見せつけられて敗退したのは、一言、あのころの日本には勝った経験がなかったから、というしかない。

 

 勝ったことのないチームは、土壇場のところで自分たちを信じることができない。先制すれば「大丈夫か?」、先制されれば「ああ、やっぱり」。すべてをポジティブにとらえることのできる、勝ったことのあるチームを倒すのは、簡単なことではない。

 

 だから、今年のJリーグは空前の戦国時代に突入するのではないか。そんなことを思わされた天皇杯の決勝だった。

 

 優勝したセレッソの出来がよかったとは思わない。逆転負けを喫したマリノスの出来が悪かったとも思わない。試合時間120分のうち、狙い通りかそれに近い戦いができたのは、むしろマリノスの方ではなかったか。

 

 にもかかわらず、勝ったのはセレッソだった。この試合だけの勝因をあげるのならば、水沼の強引さが膠着状態を打ち砕いた、ということになるのだろうが、わたしには、およそ上手くいっているとは言い難い試合展開だったにもかかわらず、セレッソの選手たちに焦りの色がまるで見られないのが実に興味深かった。

 

 ルヴァン杯で優勝した経験によって、セレッソはそれまでのセレッソ、大事なところで極端に勝負弱かったセレッソではなくなっていた。

 

 となれば、リーグ最終節で奇跡的な逆転優勝を遂げたフロンターレも、これまでのフロンターレではなくなっているはずである。

 

 W杯に出たことのなかった日本代表がそうだったように、これまでのセレッソは、フロンターレは、土壇場で自分たちの実力を信じきることのできないチームだった。だが、これからは違う。近年のJリーグを引っ張ってきたチーム同様、いや、雌伏の時期が長かった分、より強く、より激しく、勝つことに貪欲なチームになっていくことだろう。

 

 つまり、今年のJリーグは、昨年よりも2チーム、「自分たちは勝てる」と信じるチームが増えたことになる。土壇場で自滅してしまうチームが、2チーム減ったことになる。

 

 さあ、どうなるか。

 

 アントラーズはもちろん強い。アジアを制したレッズも強い。だが、その神通力は、昨年ほどには通用しなくなる。実に楽しみな18年。今年もよろしくお願いします。

 

<この原稿は18年1月4日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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