8日、第96回全国高校サッカー選手権大会決勝が埼玉スタジアムで行われ、前橋育英(群馬県)が流通経済大学付属柏(千葉県)を1対0で破り、初優勝を果たした。後半アディショナルタイムにFW榎本樹がこぼれ球を右足で蹴り込み試合を制した。前橋育英は選手権21回目の出場で初めて優勝旗を手にした。

 

 前橋育英・飯島、大会7ゴールで得点王(埼玉スタジアム)

前橋育英 1-0 流通経済大学付属柏

【得点】

[前] 榎本 樹(90分+2分)

 

 前橋育英は今大会1失点、流経大柏は無失点で決勝まで勝ち上がってきた。両チームとも簡単にゴールを割らせない締まったゲーム展開となった。

 

 前半5分、前橋育英に最初のチャンスが訪れる。ペナルティーエリア右に流れパスを受けたFW飯島陸が右足を振り抜くが、流経大柏DF瀬戸山俊にスライディングブロックされた。防がれたもののエースがこのワンプレーで流れに乗った。

 

 飯島は立て続けにチャンスに顔を出す。26分にはゴール前のこぼれ球に滑り込みながら左足でシュートを放つがDFにクリアーされた。27分には左足のミドルを放つがボールはわずかにバーの上を通過。前半アディショナルタイムにはペナルティーエリア右サイドに抜け出ると右足でシュート。惜しくも左ポストに嫌われた。身長166センチと小柄なナンバー10が相手ゴールを脅かす。

 

 流経大柏・本田裕一郎監督は「守備的に行かざるを得なかった」と語ったように5試合16得点の前橋育英の攻撃陣は脅威だったが、今大会無失点の底力を見せつけスコアレスで試合を折り返した。

 

 10代の若者たちの熱き戦いは後半に入っても観る者を惹きつけた。

 

 15分に前橋育英はピンチを迎えた。右サイドからクロスを入れられると中で待ち構えるMF宮本優太にヘッドで合わせられる。山なりに枠を捉えたボールはGK湯沢拓也の頭を越えるかと思われたが、右手で何とか掻き出した。難を逃れると反撃に転じた。19分、左サイドでボールを受けたMF五十嵐理人がMF田部井涼とのワンツーでペナルティーエリアに侵入。左足でシュートを放ったがクロスバーを叩いた。

 

 スコアレスで迎えたアディショナルタイム。会場の誰もが延長戦を予想した。しかし、攻め続けた前橋育英がついにゴールネットを揺らす。田部井涼がゴール前に浮き球を供給すると、榎本は186センチの長身をいかしたバックヘッドで飯島につなぐ。ボールを受けた飯島はトラップでGKを外して左足でシュートを放ったが、流経大柏DF三本木達哉に体で阻止された。飯島は「やってしまった」と焦ったが、「目の前に転がってきた」と相棒の榎本がルーズボールに反応。力強く右足で蹴り込んで試合を制した。

 

 決勝ゴールを決めた2年生の榎本はこう振り返った。

「実感はないですが嬉しいです。(シュートが相手DFの)股を抜けてラッキーゴールだったと思います。3年生に迷惑をかけてきたのでゴールで恩返しができました」

 

 昨年、前橋育英は決勝の舞台で青森山田に0対5の大敗を喫した。大会得点王に輝いた飯島は「去年の悔しさを思い出しながらやってきた」と語り、こう続けた。

「メンバーに入れなかった選手も応援してくれた。その人たちのためにも結果を残せてよかったです。(1点を奪っても)流経大柏は反撃してくると思った。(先制点は)嬉しかったが、DF陣の声をかけられ気持ちを引き締められました」

 

 敗軍の将となった本田監督は「よくここまで(決勝まで)来られた」と選手を労いつつ、「高体連(全国高等学校体育連盟)はプレーヤーズファーストを掲げているのだから、運営優先ではなく選手最優先で考えてほしい。人間の体は24時間休めないと回復しない」と10日間で行われた今大会の過密日程に言及した。

 

 今年も美しくも激しい真剣勝負に大会は盛り上がった。しかし、現レギュレーション上、ノーシードで決勝に勝ち上がった場合、短期間で6試合をこなさなければならない。未来の宝となりうる選手の疲労度も考慮されるべきだろう。

 

(文/大木雄貴)