追悼・長渡譽一氏「ザ・ロイヤルGC、設計に込めた思い」後編
ザ・ロイヤル ゴルフクラブ(ザ・ロイヤルGC・茨城県鉾田市)を舞台にして新しいゴルフの愉しみ方を提案する「世界へ発進! 脱日本式ゴルフのすすめ」。今回も引き続いてザ・ロイヤルGCの設計を手がけたゴルフ場設計家・長渡譽一氏にスポットを当てることにした。
長渡氏は昨年夏、かねてより闘病を続けていたが胆管癌で亡くなった。享年76。これまでゴルフ界に残した功績を称え、そして氏を偲ぶために、生前、残したインタビュー(提供:ザ・ロイヤルGC)を元に、長渡氏がこのザ・ロイヤルGCの設計にかけた思いを紹介しよう。
一切の妥協を許さない
ザ・ロイヤルGCを語る上で長渡氏とともに欠かせない人物がいる。プロゴルファーで日本ゴルフツアー機構(JGTO)のツアーコースアドバイザーを務める鈴木規夫プロだ。ザ・ロイヤルGCの改修においてもアドバイザーとして手腕を発揮した。
鈴木プロは語った。「長渡さんと僕、2人で手がけたコースは何コースになるのか、随分とやったのではっきりとした数は覚えていません。大阪読売、那覇ゴルフクラブなど日本でも有数のコースを一緒に作り上げました。私が長渡さんとなぜパートナーを組んで仕事を続けているかというと、あの人は心の強さを持っていて、一切の妥協を許さない。コース設計という面で非常に強い意志を持っています。だから私とコースづくりで意見をぶつけ合ったこともたくさんあります。思い切りこっちが言っても彼は折れないから、どんどんとぶつかっていける。それでやるとなったら言い訳が一切ないので、本当にパートナーとしてやりやすいんですよ。もちろん出来上がったコースが一級品なのは言うまでもありません」
長渡氏も鈴木プロには全幅の信頼を置いている。ふたりのコンビネーションがザ・ロイヤルGCにどう活かされたのか? 長渡氏によれば「鈴木さんとのコラボレーションでプロに厳しく、そしてアマには挑み甲斐のある非常にバランスの良いコースに仕上がった」という。そして続けた。
「鈴木さんとは20年近く、一緒にツアーコースのメンテナンスアドバイザーやコース設計を一緒にやっています。だから波長が合うというか、彼の考えていることはだいたい分かるし、向こうもこっちのことを分かっているでしょう。鈴木さんはプロ、そして私はアベレージゴルファー。だからコース設計ではその部分でぶつかることもありました。でも2人に共通していたのは、アマチュアの人でも頑張れば攻略できる、そういうコースにしようという思いですね。たとえばグリーン手前のバンカー。アマチュアのことを考えれば、これは浅くした方が当然いいんです。でも我々はそういうコース作りはしません。そこは"ちょっと頑張ってうまくなってください"というメッセージをコースに込めます。そうしないとゴルフって面白くないですからね」
全長8000ヤードを超す"世界基準"がセールスポイントのザ・ロイヤルGCだが、決して"難コース"というわけではないのだ。
攻略の鍵は周囲を見る余裕
長渡氏はザ・ロイヤルGCを訪れるゴルファーにはこうアドバイスしたい、と語っていた。「眼の前のコースだけを見るのではなく、周りも見てください」と。この言葉の真意について聞いてみた。
「このコース、以前はティーグラウンドからハザードやバンカーが見えない所もあったんです。でも造成からやり直して全面改修したのでアタックルートからはすべて見えるようにしました。だから"ここにバンカーがあったのか……"というようなだまし討ちはしていません。ただグッと曲がったドッグレッグ状になってるところは当然、先のバンカーは見えない。でもそういう所は実は前のホールから見えるように作ってあるんですよ。
たとえば3番ホールは、その前の2番をプレーしているときに見える。そういう空間作りをしています。2番の途中で確認して、次のティーショットに活かしてもらいたい。そういうところがプレーヤーとコース設計家の信頼関係なんじゃないかと考えています。ちゃんと作ってありますよ、隠してませんからね、と。地形的に許される限りは情報開示をしているわけです。1ホールごとに遮二無二攻めるのじゃなくて、18個のホールを連なって考えて攻めてもらえれば大丈夫。目の前のホールのことしか考えてないと失敗しちゃうコースだと言えるかもしれません」
昨年6月、ザ・ロイヤルGCで初のプロトーナメント「チャレンジトーナメント」が実施された。プロでも「長い……」とため息を洩らし、スコアを崩すプレーヤーが続出した。
鈴木プロはそんなプロを見ながら、現地でこう語ったものだ。
「みんな、距離に惑わされている。力んでいるのかもしれない。このコース、平常心で挑まないとスコアを伸ばせませんよ。それにコースとばかり戦っていてもだめ。空を見上げて、周りをよく見ないと。そうすれば自ずと道は開けてくるものですよ」
プレーヤーファーストの植樹
ザ・ロイヤルGCの大改修にあたってはホールを区切る木々も根本から見直された。長渡氏はホール内の景観を損ねるのを嫌って防球ネットの代わりに木を巧みに配置するなどこだわりを見せた。さらにそれだけでない植樹の秘密も明かしてくれたのだ。
「ザ・ロイヤルGCは簡単か難しいかでいうと難しいコースです。体力も使うし、そして頭もフル回転してプレーします。だからホールのあちこちにアロマ効果のある木を探してきて植えました。カートが止まる所などにね。その香りをかぐと頭がスッキリとする。そんなことまで考えて設計したのはここだけです。そういうことも含めて、設計家のわがままとこだわりを全部、詰め込んだコースができたと思っています」
今年5月24~27日には「全英への道ミズノオープン」がザ・ロイヤルGCで開催される。残念ながら長渡氏は自らが設計したコースで開かれるビッグトーナメントを目にすることなく他界してしまったが、トッププロたちの戦いを鉾田の空の上から見守っているに違いない。
鈴木プロは語る。「このコースを作りながら考えていたのは次の3つです。長渡さんともよく言ってましたが、ここを世界に通用するコースにしよう、ここを世界に羽ばたくゴルファーを育てよう。そして世界中から尊敬できるゴルファーが集うコースにしよう、と」
長渡氏の遺産であるザ・ロイヤルGCはグラウンドオープンからこの3月で1年を迎える。"世界"を目指すザ・ロイヤルGCの挑戦の物語は、まだまだ序章である。
<構成:スポーツコミュニケーションズ編集部・西崎、写真:ザ・ロイヤルGC、SC編集部、監修・二宮清純>