ザ・ロイヤル ゴルフクラブ(ザ・ロイヤルGC・茨城県鉾田市)を舞台にして新しいゴルフの愉しみ方を提案する「世界へ発進! 脱日本式ゴルフのすすめ」。今回はザ・ロイヤルGCの設計を手がけたゴルフ場設計家・長渡譽一氏にスポットを当てたい。


 長渡氏は今年夏、かねてより闘病を続けていたが胆管癌で亡くなった。享年76。これまでゴルフ界に残した功績を称え、そして氏を偲ぶために、生前、残したインタビュー(提供:ザ・ロイヤルGC)を元に、長渡氏がこのザ・ロイヤルGCの設計にかけた思いを紹介しよう。

 

 一世一代の大プロジェクト

 1941年、宮崎県に生まれた長渡氏は、ゴルフ場設計一筋に歩んできた。
「最初はコースのメンテナンス屋でしたが、あるときにミニコースをひとつ作らせてもらったら、それが面白かった。そこからゴルフ場設計の楽しさに目覚めたんです」(長渡氏)

 

 若いころはゴルフ場管理会社で働き、そこでコース設計を学んだ。後に設計事務所をつくり独立。苦労して日本を代表する設計家となった長渡氏は、日本ゴルフツアー機構コースアドバイザーやメンテナンスアドバイザーを長年にわたって務めた。全国の著名なコースの設計、監修に関わり、よみうりカントリークラブ、那覇ゴルフ倶楽部、ザ・カントリークラブジャパンなど日本有数のコースの全面改修も手がけている。

 

 日本カバヤ・オハヨーホールディングスの野津基弘代表が、「日本に世界基準のコースを」との思いで所有するゴルフ場の改修プロジェクトを立ち上げたとき、設計家はすんなり長渡氏に決まった。だが、これは野津社長が"選んだ"わけではなかったという。

 

(写真:長渡氏とアドバイザーを務めた鈴木プロは旧知の仲。2人のプロフェッショナルの仕事でザ・ロイヤルGCの改修は進んだ)

「選ぶ、選ばないというと失礼になりますが、私が長渡さんを選んだわけではないんです。選んだのではなく、出会ったというのが正しい表現ですね。我々のグループにゴルフ場を管理する東京レジャー開発という会社があり、そこの堀井秀則副社長と私はとても長い付き合いで信頼しているんです。その堀井副社長が、"ゴルフ関連でやりたいことがあるんだったら紹介しますよ"と、紹介してくれたのがプロゴルファーの鈴木規夫さん。それで鈴木さんから長渡さんにつながった。コース設計の第一人者である長渡さん、そしてアドバイザーに鈴木プロ。人と人のつながりで結果として日本でトップクラスの人に仕事を頼むことができたんです」

 

 野津代表と鈴木プロからの依頼に、長渡氏は即答した。もちろん答えは「イエス」だった。「ずっとゴルフ場設計に関わってきましたが、ここまで大きなプロジェクトには出会ったことがなかった。それにもう私の人生でこういう大きな話はないだろうと、オファーを頂いたときにすぐに飛びつきましたよ。開発面積も大きく、ザ・ロイヤルオーシャンという既存のコースを改修という話でしたけど、もうほぼ新設計、新しく一からコースを造る大プロジェクトでした」(長渡氏)

 

 カバヤ・オハヨーホールディングスが所有するゴルフコースはショートコースを含め全国に6つある。その中から野津代表が改修候補にあげたのが茨城県鉾田市のザ・ロイヤルオーシャンと静岡市清水区の富嶽カントリークラブだった。

 

「ザ・ロイヤルオーシャンと富嶽、この2つを実際に見に行きました。どちらもいいコースですが、土木的視点からすると大きな違いがあった。富嶽は地面の下に岩盤があって、ザ・ロイヤルにはそれがない。何ヶ所もボーリングテストをしたけど岩盤が出ませんでした。バンカーを深くしたり、グリーンの形をデザインしたり、フェアウエイにアンジュレーションをつける。そういう設計プランだったので、岩盤がない方がデザインの自由度が当然高い。それでこっち(ザ・ロイヤルオーシャン)に決めました。あと折に触れて鈴木プロとも話していましたが、"鹿島神宮が近いからここには神様が宿っているだろうね"、と」(長渡氏)

 

 神々が宿る土地--。鹿島神宮に隣接する鉾田市のザ・ロイヤルオーシャンを舞台にした"世界基準"のコース造りが始まった。着工は2016年1月。完成は同年8月。グランドオープンは翌17年3月。「規模を考えれば時間が足りない」(長渡氏)というスケジュールを前に、精力的にコース設計を進めていった。

 

「コース設計家というのは土地を見て、あれこれと頭の中にアイディアが浮かぶものです。でも理想ばかりは言っていられない。コースオーナー側には予算の都合がありますからね。でもザ・ロイヤルGCの設計においては、私の意向を伝えるとほぼ全部、聞いてもらえました。あまりお金のことは言われずに、本当に自由に設計させてもらえました。こんなことは珍しいですよ。

 

 どのコース設計でもそうですが、まず最初に行政の開発に関する規定を頭に叩き込みます。これを熟知しておかないと途中で中止、変更となると大きな損害を与えてしまいますからね。それでここの土地が良かったのは、4メートルくらい掘ると砂利が出るんです。それで水がしみこんでいく。こうしてきちんと排水ができる土地はなかなかないんです。"これは理想のコースができるな"と、非常に気分良くプロジェクトをスタートできました」(長渡氏)

 

 05年全米OPで見た"世界基準"

「野津代表には自由に設計をさせてもらった」と感謝する長渡氏だが、自由度が高いゆえの悩みもあった。設計当初から"世界基準とはなんだ?"と、自問自答する日々が続いたという。

 

「ゴルフ場の設計というのは仕様や基準のない世界です。この数字をクリアしたら"世界基準"だというのは、どんな本を調べてもないわけです。私は若いころは組織に所属してサラリーマンとしてコース設計をしていました。そのときに教えられたのが"いいか、コースで大事なのはパー3は1打でグリーンに乗ること、パー4なら2打、パー5なら3打。そうやって設計するのが大事なんだ"ということです。

 今回、ザ・ロイヤルGCの設計では野津代表に"長渡さん、10年、20年、いやもっと先を見越したコースにしてくださいね"と言われて、その昔の教えを思い出したんですよ。

 昔、3オンだったパー5のコースも今は2打目でグリーンに乗せてバーディ、うまくいけばイーグルを狙えるようなところもある。それはクラブやボールの道具の進化もあるし、プレーヤーの技術も進歩しているからです。

 でも先のことは未知の世界で、誰にも分からない。だからどういうコース設計にすれば10年、20年先でも通用するのか、と悩みました。そのひとつの提案が8000ヤード超という全長です。ゴルフは距離だけではないと私は思っていて、それを自慢するわけじゃありません。でも、ひとつの方向としての提案が8000ヤードという距離だったんです」(長渡氏)

 

 長渡氏はテレビで海外のトーナメントを見ることを日課にしていた。「自分のゴルフはトップレベルじゃないですから、トッププロのやっていることは見て理解するしかありません」。このコースでトッププロはこの距離をどう打つのか、ここではどう攻めるのか----。繰り返し、頭の中でシミュレートしていたという。

 

「録画して何回も見た海外のトーナメントで印象に残っているのが、2015年の全米オープン。ワシントン州のチェンバーズベイGCで行われた、ジョーダン・スピースが優勝した一戦です。あのときスピースは飛距離で勝利したんじゃないなと感じたんです。飛距離でいえば18位に入った松山英樹の方が飛んでいた。だけどなぜスピースが優勝したのか? 彼は最初からバーディしか狙ってないからだと感じたんですね。

 スピースはボールを落とす場所を15ヤードぐらいに絞って、そこを狙うわけです。なんとなく狙うのではなく、強い意志を持って確実に狙っているわけですよ。運悪くそのショットが外れたらパーに切り替えるけど、15ヤードに入ったら絶対にバーディ。そういう球を打ち、そういうゴルフをしているんだと僕は解釈しました。このときに"世界基準"という意味がわかった気がしました。15ヤードだったら15ヤードの範囲に打たないと結果の出ないコース。私が造るべきはそういうコースなんだ、と確信しましたね」(長渡氏)

 

 ザ・ロイヤルGCの18ホールには長渡氏流の"世界基準"が、至るところに散りばめられている。では、ザ・ロイヤルGCはトッププロでしかその醍醐味を味わえないコースなのか。答えは「NO」である。長渡氏は「ゴルフというゲームはスコアではなく、達成感があるかどうか。それが面白さですからね」と語り、こう続けた。

 

「私はアベレージプレーヤーですから大きなことは言えませんが、ゴルフの本当の面白さ、奥の深さを知ってプレーしている人というのは一握りだと思うんですよ。ゴルフの面白さというのは達成感です。達成感というのは工夫すればする程、大きくなります。難しいコースでもプレーヤーが考えて、工夫してゴルフをすれば達成感を得られる。プロでも昨日今日始めた初心者でも、うまくコースを造れば、レベルによってそれぞれ達成感が得られるんですよ。どう攻めるか、どう打つかと工夫してゴルフをする。その先にあるのはスコアじゃないんですよね。ザ・ロイヤルGCはそのためのコース、そういうことが感じられるコースです。そういう風にできたかどうかは分かりませんが、設計家としてはそう感じてもらえるコースを造ったつもりです」

 

 スコアではなく工夫の先の達成感----。ザ・ロイヤルGCの設計にかけた長渡氏の思いは、これだけではない。グリーン下の土壌作りやコース脇の木々や植栽など、そのこだわりは細部にまで及んでいる。それについては次回、詳しく紹介したい。(この項つづく)

 

<構成:スポーツコミュニケーションズ編集部・西崎、写真:ザ・ロイヤルGC、SC編集部、監修・二宮清純>


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