20日、平昌五輪ノルディック複合個人ラージヒルが行われ、ヨハネス・ルゼックが23分52秒5で1位、ファビアン・リースレが23分52秒9で2位、エリック・フレンツェルが23分53秒3で3位だった。ドイツ勢が表彰台を独占した。ノーマルヒル銀メダリストの渡部暁斗(北野建設)は前半のジャンプでトップに立ったが、後半のクロスカントリーで逆転され、トップと12秒5差の5位入賞。その他の日本勢は永井秀昭(岐阜日野自動車)が12位、山元豪(ダイチ)は16位、渡部善斗(北野建設)が20位だった。

 

 渡部暁斗は“キング・オブ・スキー”にまたしても届かなかった。

 

 14日のノーマルヒルで銀メダルを獲得。日本のエースとして、今季W杯総合1位の実力は証明した。だが、レース後に「喜びと安心感が半分と、自分が目標としていた金メダルにたどり着けなかった悔しさが半分あります」と口にしたように渇望していた頂点に辿り着けなかった思いもある。「悔いの残らない攻めたレースをして、この銀メダルを金メダルに変えたい」と意気込んでラージヒルに臨んだ。

 

 幼少期は「ジャンプで世界一になる」と夢見たこともある。渡部暁斗はまず得意のジャンプで魅せた。一発勝負のジャンプ。最終時速91.6kmの助走から揚力を得られる向かい風にも乗り、134m飛んだ。ヤールマグヌス・リーベル(ノルウェー)を抜き去り、トップに立った。

 

 好スタートを切ったかと思われたが、前半のジャンプを終えて「かなり厳しい戦いになる」と渡部暁斗は語った。その理由は24秒差のフレンツェル、31秒差のルゼック、34秒差のリースレはクロスカントリーを得意とするドイツ勢の存在だ。チームプレーをする絶好のポジションを確保し、風除けをうまくコントロールしながらトップを追いかけてくる。渡部暁斗は「簡単に逃げ切れるとは思わない」と気を引き締めていたが、不安は的中した。

 

 1周2.5kmのコースを4周する。渡部暁斗は前半2位のリーベルと並走した。「前半は逃げてみようと、ハイペースで入ってしまった」。逃げる渡部暁斗たちを追いかけるドイツ勢はそれ以上のペースで迫ってきた。2.5km通過で16.6秒、5km通過で8.9秒。みるみる差は縮まっていく。3周目に入ってから先頭をとらえると、上位7人による集団ができあがった。すると7.5km通過はリーベルがトップ。1.5秒差以内に渡部暁斗とドイツ勢が入っていた。

 

 上り坂、下り坂が続くクロスカントリー。最後のヤマ場はラストにそびえる上り坂か。ここを前に渡部暁斗が仕掛けようとしたが集団から抜け出せない。最後の上り坂の途中で板を取られ、バランスを崩して万事休す。下り坂で加速するライバルたちを尻目に、乗り遅れた渡部暁斗は優勝争いから完全に脱落した。ドイツ勢は猛然とスパート合戦。ルゼック、リースレ、フレンツェルの順でゴールした。リーベルが4位に入り、渡部暁斗は5位だった。

 

「今日はあまりいいレースができなかった」と肩を落とした。序盤のペースメイク、追い付かれてからの展開が思い通りにいかなかったことを指しているのだろう。下り坂での伸びも悪く、ワックス選択に失敗した可能性もある。ドイツ勢が一団となった不運も合わせて、この日は渡部暁斗の日ではなかった。

 

 大会前から「僕は金メダルを獲ることしか考えていません」と宣言。自らの鼓舞する意味もあったのだろうが、渡部暁斗は「No.1と認めてもらうにはオリンピックの金メダルは当然のことながら、W杯でも勝ち続けなければいけない。渡部暁斗=No.1というイメージを付けられるようにベストを尽くしたいです」と“シルバーコレクター”返上に燃えていた。しかし、悲願は達成されなかった。

 

 個人戦2種目を終え、2位と5位。残すは22日の団体戦だ。渡部暁斗にはエースとしての期待が集まる。本人も「団体戦ではメダルを獲れるようにいい仕事をしたい」と気を取り直していた。日本としてはラージヒルを席巻したドイツ勢にどこまで食らいつけるか。まずは前半のジャンプで大きな貯金をつくりたい。

 

(文/杉浦泰介)