「左は世界を制する」とはボクシング界の格言だが、似たようなことはプロ野球の世界でも言える。胸突き八丁の後半、左の強打者を確実に封じてくれる左のショートリリーフの存在は、ベンチに座る監督にとっては必要不可欠なものだ。

 


 昨シーズン、37年ぶりの連覇を達成した広島。しかし、左のリリーフ陣は1勝どころか1セーブも記録することができなかった。わずかに飯田哲矢が1ホールドを記録したのみ。先発、中継ぎ、抑えからなる分業制が確立し、左のショートリリーフの存在感がいや増す昨今、こうした例は極めて珍しい。


 元々、広島は左の中継ぎをトレードで獲得したり、自前で育てたりすることに定評のある球団だった。球団創設26年目にして初優勝を果たした1975年には、阪急からトレードでやってきた渡辺弘基がシーズン通じてフル回転した。55試合に登板して3勝3敗1セーブ、防御率1.85。翌76年はリーグ最多の73試合に登板している。


 79、80年の連覇時はクローザー江夏豊の前を大野豊が受け持った。79年は58試合に登板して5勝5敗2セーブ、80年は49試合に登板して7勝2敗1セーブ。今にして思えば通算148勝、138セーブの大投手を中継ぎで使っていたのだから贅沢な話だ。


 昨シーズンの広島は2位・阪神に10ゲーム差をつけるなど圧倒的な強さで優勝しながら、CSでは3位だった横浜DeNAに完敗した。主砲の筒香嘉智を打席に迎えても頼りになる左のリリーフがいないのだから代えられない。最終的には左の中継ぎ不在が致命傷となった。


 この反省を踏まえ、ドラフトで即戦力の左を補強するのかと思っていたが見送った。新外国人にも左は見当たらない。緒方孝市監督には現有左腕の成長でシーズンを乗り切れるという自信があるのだろう。


 前年と同じ轍を踏むようでは3連覇はおぼつかない。キャンプ、オープン戦で期待のサウスポーは現れるのか。

 

<この原稿は2018年2月26日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

 


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