(写真提供:adidas)

 サッカー日本代表は6月、6大会連続6度目の出場となるFIFAワールドカップ・ロシア大会に臨む。周知のように日本代表のユニフォームはadidasが提供している。ロシア大会に向けて昨年10月31日に新作を発表した。そのユニフォームに込めた思いとは?

 

 前回の「PREDATOR18+」に引き続き、ユニフォームの開発に携わったadidasマーケティング事業本部Footballビジネスユニットマーチャンダイジングシニアマネージャーの山口智久氏に訊く。

 

 

 侍の魂を継承した“勝色”

(写真提供:adidas 背番号はシンプルなデザインでプリントされている)

 今回のユニフォームはサッカー日本代表歴代ワールドカップユニフォームの中で、もっとも濃いブルーを採用した。新作のカラーについて山口氏は「コンセプトは“勝色(かちいろ)”です。これまでW杯イヤーのユニフォームは昔から同じブルーを採用してきましたが、初めてベースカラーのブルーを日本伝統の藍染めから生まれた深く濃い藍色にしました」と語る。

 

 さて勝色とは、どんな色か。山口氏によれば「侍たちが戦いに挑む際、身にまとった鎧下と呼ばれる着物に使用されていた色で、藍染め工程において、勝ちへの想い・魂をより深く濃く染め上げた藍色」。日本代表の愛称はSAMURAI BLUEである。adidasはその原点に立ち返り、侍にちなみ「勝色」をベースカラーに採用したのだ。山口氏は「“戦いで勝つんだ”という侍の魂をユニフォームの勝色に込めました」と熱弁した。

 

(写真提供:adidas 欧州遠征メンバー発表の会見場に展示された甲冑<右>)

 このユニフォームが一般に公開されたのは昨年10月31日の欧州遠征(ブラジル戦、ベルギー戦)の日本代表メンバー発表会見の席だ。adidasは新作ユニフォームを着たマネキンと勝色の甲冑を会見場に用意した。代表監督のヴァイッド・ハリルホジッチはそれに興味を示し、「これを着ればブラジル戦でいい試合ができそうです」と喜んだと言う。

 

 歴史を紡ぐ刺し子柄

 

 ユニフォームの胴体部分の縦に走る薄藍色の点線も斬新だ。山口氏は「日本伝統の刺し子柄風プリントを取り入れました」と言う。

 

 刺し子柄は古くから伝わる伝統的な刺繍だ。これが誕生したのは、16世紀初頭にまでさかのぼる。藍色の布に白い糸で線を描くように刺繍する。もともとは衣類の補強として刺し子柄が施されたのがはじまりだと言われている。

 

 この点線にadidasは思いを込めている。「歴史を紡ぐ糸をイメージしているんです」と山口氏は語り、こう続けた。

「日本代表が初めてワールドカップに出場したのが1998年のフランス大会です。今年は初出場からちょうど20年が経ち、ロシア大会を迎えます。単純に、今回のロシア大会も頑張りましょうというだけではなく、20年間ずっと培ってきた経験や歴史を全て集結させたいと我々は考えました。かつて代表選手として活躍された方々や昔からずっと代表を応援してくれているサポーターにも意見を聞き、初出場から20周年の記念すべき年に国全体の力で日本が世界に勝つためのユニフォームを作ろうとなりました」

 

 鮮やかな赤いラインのVネックも目をひく。世界の晴れ舞台で勝利するという「ヴィクトリー(Victory)」と「Vネック」の2つのVをかけ合わせている。この赤は日の丸がデザインのモチーフとなっている。adidasはこれを「ヴィクトリーレッド」と呼んでいる。

 

 このVネックには日本ならではの伝統的な意味合いも含まれる。山口氏はこう説明する。
「このV字形状も侍が着物を羽織った時の、首元の重ね合わせを意識しているんです。藍染めもそうですが、日本の伝統、侍の要素をこのユニフォームに詰め込みました」

 

(写真提供:adidas 首元のVネックと裏地に印刷された過去5大会のデザインコンセプト)

 首の裏地部分にあるadidasのロゴ上にひし形の模様がある。この中に炎や山などのデザインがプリントされている。山口氏の解説。

「過去、日本代表がW杯に出場した時のユニフォームのデザインコンセプトの模様なんです。1998年のフランス大会のデザインコンセプトは炎。2002年日韓大会は富士山。2006年ドイツ大会は刀文。2010年が革命の羽。そして2014年ブラジル大会が円陣のコンセプトだったのでひし形のフレームで4つのマークを囲って表現しました。過去のデザインを集結させて“今まで戦ってきた歴代の選手やサポーターの気持ちを背負ってロシア大会で勝つ!”というメッセージをここに込めました」

 

 

 丸みを帯びた裾と速乾性に優れたクライマチル

(写真提供:adidas 裾部分は丸みを帯びた形になっている)

 日本古来の伝統が詰まった新作ユニフォーム。一方で、伝統を重んじるだけではなく、モダンなデザインも取り入れた。通常、サッカーユニフォームの裾はフラットな形状だが、今回の裾は丸みを帯びている。プレーする選手も、応援するサポーター達も大半は裾を出している。
「選手がより動きやすくハイパフォーマンスにつながりやすい形状であると共に、街中でこれを着るサポーターの皆さんにとってもよりおしゃれに見えるデザインを追求し、この形状に至りました」

 

 機能面についても触れておきたい。今回の生地には「クライマチル(CLIMACHILL)」を採用している。極細の糸を使用するため、優れた速乾性、通気性、冷却性を発揮するのだ。

(写真:「大会ごとにコンセプトを変えてデザインをするのが我々のこだわり」と語る山口氏<右>)

 この生地についての山口氏の説明はこうだ。
「冷却と速乾に長けたテクノロジーです。涼しさを保ちやすく、汗をかいてもすぐに乾きます。非常にレベルの高い素材だと我々は思っています。プレー中、選手が汗をかいてベターッと肌にまとわりついてしまい、青色も汗のせいで暗くなってしまうのが、今までの課題でした。ですが、このクライマチルは乾きやすくドライな状態を保てます。選手からもポジティブな評価をいただいています」

 

 日本の伝統と最新のテクノロジーが融合した今回の“戦闘着”。「試合中、選手たちには不快な思いを抱いてプレーしてほしくないんです」と山口氏。adidasのデザイン性と機能性の追求に終わりはない。

 

 全ては日本が世界に勝つために――。

 勝色を身にまとった代表選手達がロシアのピッチで勝利をつかみ、同じく勝色を身にまとった国中のサポーター達が湧き上がる。そんな瞬間が必ず訪れることを、adidasは信じてやまない。


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