球団創設以来、初のリーグ制覇が目前に迫ってきた。
 パ・リーグは東北楽天が首位を走り、優勝へのマジックは7。2位の千葉ロッテには8.5ゲーム差をつけ、歓喜の瞬間が近づいている。今季の楽天は、投げてはエースの田中将大が開幕から21連勝と快進撃を続け、攻撃ではアンドリュー・ジョーンズとケーシー・マギーの中軸が合わせて50本塁打を放っている。「中心なき組織は機能しない」とは野村克也元監督の言葉だが、まさに今の楽天は投打の中心が組織を引っ張っている。知将の目に、かつて率いたチームはどのように映っているのか。二宮清純が訊いた。
(写真:「最近の野球解説者の評論は聞いていて恥ずかしい」とボヤき節が全開)
二宮: 今回、楽天が優勝すると、2003年、18年ぶりにリーグを制した阪神と似たケースになります。野村さんの後で星野仙一監督が率い、補強してチームを強くする。基礎を築いたのは紛れもなく野村さんです。
野村: 阪神の時は何もしていませんよ。監督やりましたけど、こっちの言うことなんて選手は聞いていないもん(苦笑)。はっきり申し上げて、あのチームはダメでした。環境がチームを悪い方向に導いている。お相撲さんの世界と一緒でタニマチが多いから、ミーティングをやっていても、選手たちは時間ばかり気にしているんです。早く終わって遊びに行くことしか考えていない。もうしゃべる意欲をそがれて、嫌になってきましたよ。今では阪神のユニホームを着たことを大変後悔しております。

二宮: そんなこと、おっしゃらずに(苦笑)。「野村さんの教えが役に立った」と話していた選手は少なくないですよ。
野村: まぁ、感謝してくれる選手がひとりでもふたりでもいてくれたなら良かったのかもしれないね。阪神で監督をやるまでは、就任の要請があったら、どんなチームでも受けるつもりだったんですよ。球団だって検討に検討を重ねて「野村にやってもらおう」と来るんだから、断る理由は何もない。だけど阪神に行ってからは「チームは選ばなあかん」と考え方が変わりました。

二宮: 楽天の監督を引き受けたのは、新興球団でまっさらな状態でチームを基礎からつくれる点が魅力的だったと?
野村: そうです。物事は基礎、基本、応用ですから、基礎をどれだけ叩きこむかが重要なんです。その中でも根本はキャッチャー育成。キャッチャーが育てば、7割方チームづくりはできたようなものです。守りにおける監督の分身であるキャッチャーがしっかりすれば、チームは勝手に機能する。名捕手あるところに覇権あり。これは間違いないと思っています。まぁ、巨人みたいにキャッチャーの能力に関わらず、戦力で圧倒するチームもありますけど……(苦笑)。

二宮: 星野監督の指揮官としての手腕はどのように見ていますか。
野村: 星野がすごいのは球団にお金を出させるところですよ。僕はチームの編成権は球団にあると思っていますから、あれこれ自分から口は出さない主義。もちろん、聞かれれば希望は出しますが、フロントから「監督、これでやってください」と言われたら、その中でどう戦うかを考える。ただ、阪神でも楽天でも僕は「今の野球は優勝するにはお金がかかる」と口を酸っぱくして言ってきました。投打の中心となるエースと4番バッターは育てられない。補強するしかないんですよ。

二宮: 補強に加え、星野監督が起用し続けた生え抜きの銀次や枡田慎太郎らの活躍もチーム力をアップさせています。三木谷オーナーも早々と星野監督に続投要請をしましたね。
野村: 僕の時の失敗を生かしたんじゃないですか。これからクライマックスシリーズに入ろうという時に、「今シーズン限りで辞めてもらいます」なんて言われてしまった。あれで、すっかり戦意喪失ですよ。常識的に考えて、大事な戦いの前にそんなこと言いますか? それでも人格者なら「最後の花道を飾ろう」と頑張るかもしれないけど、僕はそんなお人よしじゃない。温かくて優しい仙台のファンには感謝しているから、なんとか優勝で恩返ししてほしいとは思うけど、楽天という球団に対しては、もう何の思いもありません。

二宮: 楽天が仮に優勝しても、クライマックスシリーズは大きな関門です。レギュラーシーズンとは異なる短期決戦ですから、何が起きるかわからない。
野村: 144試合の長丁場と、7試合や3試合の短期決戦の戦い方は全然違う。これは僕も南海でプレーイングマネジャーをしている時に経験がありますから。2シーズン制で前期を優勝して、後期はボロ負け。それでも圧倒的に強かった阪急をプレーオフで倒したんです。短期決戦はそういうことがある。でも、星野はレギュラーシーズンと戦い方は変えてこないでしょう。それがどう出るか……。

二宮: クライマックスシリーズは消化試合を少なくする意義があるとはいえ、今のシステムには問題があると感じます。セ・リーグでは現在3位が広島ですが、借金を抱えている状況です。シーズンを負け越しても日本一になる可能性があるなら、レギュラーシーズンは何だったんだという話になりますよ。
野村: 理屈で考えたら、バカバカしくてやっていられないでしょう。3年前にもロッテが3位でクライマックスを制して日本一になりましたが、あれもどうなのか……。だけど、何度も申し上げるように短期決戦は全然違う。広島だって、僕たちが阪急を倒したように、巨人に勝ってしまうかもしれない。

二宮: 特にエースの前田健太をはじめ、先発陣はしっかりしていますから、短期決戦で勝てる要素は持っています。あとはいかにベンチが戦略を立てられるか……。
野村: あそこの監督とは、よく話したことないから分からないね。まぁ、野村って名前が良くないわな(笑)。

二宮: 連覇が確実な巨人に対しては、野村さんは厳しい評論が多いですね。
野村: 悪口ばかり言っているけど、所詮、お坊っちゃん野球なんですよ。采配も当たり前で味がない。でも最近、原のコメントは良くなってきたかな。最初の頃は受け狙いがミエミエだったけど、だいぶ自然体になってきた。

二宮: 一方で90年代、野村さんが率いて黄金時代を築いた東京ヤクルトは最下位です。教え子の宮本慎也が今季限りで引退し、野村イズムの消滅を心配する声もあります。
野村: まぁ、それも時の流れ。仕方ないんじゃないの。コーチには教え子もいるから頑張ってほしいんだけどね。バッテリーコーチの中西(親志)とか、まじめでいい仕事しますよ。

二宮: 宮本は一度、ネット裏から野球を勉強するようですが、数年後には監督をやるでしょう。
野村: いい監督になるだろうね。本当は古田(敦也)にも期待していたんだけどダメだった。ヤクルトの次期監督で一番適任なのは宮本ですよ。何より野球をよく知っている。もちろん知識だけじゃなくて、監督として成功するにはリーダーとしての器や、選手からの信頼が大切なんです。それらの要素を彼はすべて満たしていますよ。

<現在発売中の『週刊大衆』(2013年9月30日号)では野村さんへのより詳しいインタビューが掲載されています。23日発売号にも続きが掲載されますので、こちらも併せてお楽しみください>