「この夏にロシアで行われるサッカーW杯に、(英国の)大臣やロイヤルファミリーは参加しません」

 

 

 語気鋭く、そう言い切ったのは英国首相のテリーザ・メイだ。

 

 ボイコット発言の背景には、この3月、英南西部で起きたロシアと英国の2重スパイ、セルゲイ・スクリパリとその娘に対する暗殺未遂事件がある。英国政府はロシアのエージェントの関与が濃厚と見ている。

 

 暗殺未遂に使われたのは「ノビチョク」という名の神経剤のようだ。プロの手口であることは間違いない。ひとつ間違えば市民が“無差別テロ”に巻き込まれていた可能性もあった。

 

 もちろんロシア政府は、「決定的な証拠があるのか」と、これを完全否定。ウラジミール・プーチンは、「サッカーW杯を控えたこの時期に、ロシアがこんなバカげたことをするか」と一笑に付した。

 

 英国外相ボリス・ジョンソンのプーチン批判は、さらに辛辣だった。

「プーチンはヒトラーが五輪を利用したように、サッカーW杯を使おうとしている」

 

 ロシアが国威発揚のためにスポーツを利用するのは、何も今に始まったことではない。1988年のソウル五輪では仁川に自国の船を停泊させ、船内で禁止薬物を処方していた。実態は海に浮かぶ“ドーピング基地”だったのだ。

 

 工作活動の首尾は上々だった。ソ連は金55個を含む132個のメダルを獲得し、米国に圧勝した。自国で開催した4年前のソチ冬季五輪でも国家ぐるみのドーピングが発覚し、尿検体のすり替えが行われていた事実まで明らかになった。

 

 毒物による暗殺未遂と同じレベルでは論じられないものの、薬物を使用しての工作活動はロシアの十八番である。

 

 ソチ五輪における国家ぐるみのドーピングの黒幕としてIOCから永久追放処分を受けたのは、元スポーツ相のヴィタリー・ムトコ。この男が昨年暮れまでロシアW杯組織委員会会長を務めていた現実に慄然とする。

 

<この原稿は『週刊大衆』2018年4月16日号に掲載されたものです>

 


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