「2対1のサッカーを」<後編>
二宮清純: ロシアW杯のグループリーグ(GL)、日本代表はコロンビア代表、セネガル代表、ポーランド代表と同じH組。日本のGL初戦は19日のコロンビア戦です。
戸塚啓 :前回のブラジルW杯でも0対4と大敗を喫した相手ですね。
中西永輔 :優勝候補のコロンビアと初戦で当たるのは、僕はチャンスだと思います。
二宮: チャンスだと?
中西: 優勝を狙うチームはGLの初戦にコンディションのピークを合わせないのが普通です。2試合目、3試合目と徐々にコンディションを上げてくるので、本調子じゃないうちに対戦できるのはラッキーです。
二宮: 競馬のように“ひと叩き”ですね。GLはトライアル、決勝トーナメントに入ってからが本番だと。
中西: 僕はフランスW杯の初戦でアルゼンチンと対戦しました。0対1で負けはしましたが、相手はベストコンディションではなかった。
初戦は内容次第
戸塚: 0対0の時間帯が長く、途中からアルゼンチンの選手たちが本気になりましたよね。
中西: 試合の途中から明らかにアルゼンチンの選手たちが“やばいぞ”と目つきが変わったのがわかりました。コロンビア戦でもそうやって相手を焦らせれば隙は生まれると思うんです。
戸塚: 西野朗監督もコーチ陣もコロンビアは6割、7割のコンディションで大会に入ってくると予想しているようです。
二宮: コロンビアには前回大会、ケガに泣いたストライカーのラダメル・ファルカオ(モナコ)がメンバー入りしました。
戸塚: ファルカオは32歳ですし、年齢的にも最後かもしれない。前回の悔しい思いを晴らすには今回しかないですし、暴れそうです。彼をどうやって止めるのか……。具体像が見えてこない(苦笑)。
二宮: コロンビアを無失点に抑えるのは難しいでしょう。
中西: 前回大会、MFハメス・ロドリゲス(バイエルン・ミュンヘン)に日本DF陣はコテンパにやられました。彼らは個人技に長けていて、相手の裏をかくのが本当に巧みなんです。どれだけ日本のスカウティングチームが分析できているかも重要になりそうですね。
二宮: コロンビアを相手に勝ち点1をとれれば御の字ですが……。
戸塚: 何とか勝ち点1を取れれば最高ですね。でも僕は試合の内容次第では0対1で負けても問題ないのかなと思っています。
二宮: 負けても問題ない、とは?
戸塚: 優勝候補のコロンビア相手に敗れたものの“オレたち、イケるぞ”と手応えを掴める試合だったらいいんじゃないかと……。
中西: 確かに、選手たちが自信を持てるような戦いができればOKですね。でも初戦で大敗したら……。
戸塚: 0対3で手も足も出なかったら、2戦目はメンバーをある程度入れ替えても構わないと思います。いずれにせよ、2戦目にどういう心理状態で入れるかが大事ですよね。
二宮: 2戦目の相手はセネガル。3月にマリ代表を“仮想セネガル”に見立てて戦いました。結果は1対1の引き分け。私は2002年日韓W杯初戦で、前回優勝のフランスを1対0で破った試合を韓国で見ましたが、とんでもないチームだと思いました。
中西: 確かに、あの時は強かった。それに日本は南米やアフリカの国に弱い。身体能力を生かした個人技を止めるのはなかなか難しい。しかも、セネガルは昔に比べて規律を守るようになり、戦術的にも伸びた印象があります。
二宮: セネガルの代表的プレーヤーはFWサディオ・マネ(リバプール)。サイドが主戦場ですが今季プレミアリーグで16ゴールを記録しています。
中西: 彼を1人で止めるのは難しい。といって2人、3人とマネの対応に人数を割くと逆サイドが空いてしまう。全体でうまくカバーするしかないですね。
二宮: セネガルは2、3人で手間ひまかけずに点を取れる強みがありますね。
中西: 日本のDFラインは、そう高く設定できないでしょう。DFとしては背後のスペースを突かれるのが一番怖いですから。マイボールを奪われて一発のパスで裏を取られるとどうしてもスピード勝負になってしまう。そうすると日本はかなり分が悪いですね。
二宮: 注意すべき点は?
中西: 全体で自陣に引くのか、前からプレスにいくのか。これをはっきりさせるべきです。前線、中盤、DFラインがバラバラな動きをして陣形が間延びすると、彼らのフィジカル能力が最大限に生きてしまう。細心の注意を払って全体の統率をしっかりするべきですね。
戸塚: セネガルは“日本から勝ち点3を奪うのはマスト”と考えているはず。焦れずに我慢して0対0の時間帯が続くと彼らも焦るはず。そのスキをうまく突いて欲しいですね。
レバンドフスキを止めろ
二宮: GL最終節の相手はポーランド代表。ブンデスリーガのバイエルン・ミュンヘンでも活躍するFWロベルト・レバンドフスキがいます。ヨーロッパ予選でも10試合で16ゴール。彼を止めるのは至難の業です。
戸塚: ヘディングは強いし、両足でも蹴れる。何でもできますよね。
中西: 強さ、高さ、うまさの三拍子を兼ね備えた高いレベルでオールマイティな選手ですが、この3カ国の中で一番戦いやすいのはポーランドだと思います。
戸塚: 日本代表のスタッフ陣も「ポーランドが一番予測が立てやすい」と言っていました。とても組織だっていて基本はカウンターですから。ただ、レバンドフスキが恐ろしく強烈ですが……。
中西: フランスW杯ではアルゼンチン代表のガブリエル・バティストゥータとクロアチア代表のダヴォール・スーケルの2人の名ストライカーにゴールを決められてしまった。
戸塚: 抑えていた時間帯もありましたが、その時もストライカーたちの“見えない圧力”などはありましたか?
中西: 正直な話、“スーケルは大したことないなぁ”と得点を奪われるまでは思ってプレーしていました。
二宮: スーケルはフランスW杯の得点王に輝きました。
中西: えぇ。初戦にアルゼンチンと対戦してバティストゥータやクラウディオ・ロペスらと対戦した影響もありました。“スーケルよりバティストゥータの方がすごいな”と思いながらプレーしていたんです(笑)。全く動かないんですもの。
二宮: あの日、会場のナントは猛暑でした。気温は34度、ピッチ内の気温は40度以上だったと言われています。取材していた私も汗が止まらなかった。
中西: 暑さの影響もあったかもしれないですね。それにしても運動量が少なかった。
戸塚: それでもスーケルは一瞬のスキを突いてきた。
中西: 実は、失点する直前に僕は、スーケルに肘打ちを食らったんです。
二宮: 失点シーンは日本の右サイドからクロスを入れられ、ファーサイドのスーケルがボールを収めてシュートを放ちました。
中西: スーケルがボールを受ける前に肘打ちを食らって倒された。その間にフリーになってゴールを決められたんです。僕もすぐに起き上がってスライディングでシュートブロックに入ったのですが、間に合わなかった。
二宮: 駆け引きを含めての“技術”なのでしょうね。
戸塚: そのようなワンチャンスをレバンドフスキに与えてしまったら……。
中西: 彼らはそれを逃がさない。確実にモノにしてくると思います。
二宮: 日本代表の現実的な目標はグループ突破です。最低でも1試合は勝ち点3が必要になります。
戸塚: 3試合とも押し込まれる時間帯が長くなることが予想されます。わずかなチャンスを生かしたいですね。
中西: 相手の戦力を考えても日本はカウンターサッカーに終始する気がします。
イマジネーションの共有
二宮: 意外な展開でゴールが決まることもある。PKもある。僕は日本が上位進出するために2点目を取る根拠や戦術が以前から必要だと思っているんです。つまり2対1で勝つゲーム。
戸塚: 確かにおっしゃる通り。でも、まだ1対0で勝つサッカーをしたいのか、2対1で勝つサッカーをしたいのかも不透明ですよね。
二宮: 1点はフロックで取ることができても、2点目は実力がないと取れない。
戸塚: 指導者は1点を取れれば、その流れで2点目も取れると思うから、戦略がぼやけてしまうのでしょうか。
二宮: 中西さんは、どう思いますか?
中西: サッカーは“こうやって点を取ろう”と明確にするのは不可能なんじゃないかなぁ、と思います。
二宮: サッカーの競技特性上、やはり難しい?
中西: はい。もちろん、相手もいますし、こちらがボールを保持するのか、カウンターを仕掛けるのか、などの戦術が複数ある。そして前線の選手たちのイマジネーションなどが重なって得点が生まれる。世界を見渡しても「2点目はこうやって取るんだ!」とはっきりと言える監督はいないのではないかな、と思います。だから……。
二宮: だから?
中西: 日々の積み重ねが大事なんです。監督がどういうサッカーを標榜しているのか、今はサイドを崩すべきか、中央を突破した方がいいのか。こういう判断のすり合わせが大事です。あとは選手間のコンビネーションが大きなカギを握ると思います。
二宮: でも直前で監督が代わってしまった(笑)。
中西: そこなんです(笑)。西野さんがどれだけ自分のやりたいサッカーを選手たちに落とし込めるか。そして選手たちがこの短期間でどれだけあの世界の舞台でそれを表現できるか。でも、僕は応援しますよ!
戸塚: 中西さんが言うと心強いですね。
(おわり)