13日、第92回全国高校サッカー選手権大会決勝が東京・国立競技場で行われ、富山第一(富山)が星稜(石川)を延長の末に3対2で下し、初優勝を果たした。富山第一は後半25分までに2点をリードされた。しかし、41分にFW高浪奨が1点を返すと、アディショナルタイムにMF大塚翔のゴールで追いつき延長へ。迎えた延長後半9分、MF村井和樹が決勝弾を決めた。富山第一が劇的勝利で現国立最後の選手権を制した。

  大塚監督、次男・翔と史上初の親子鷹V!(国立)
富山第一(富山) 3−2 星稜(石川)
【得点】
[富] 高浪奨(87分)、大塚翔(90分+3)、村井和樹(109分)
[星] 寺村介(34分)、森山泰希(70分)
 2点ビハインドからの大逆転――国立は最後までドラマチックだった。

 序盤、試合を支配したのは富山第一だった。両サイドの選手が相手DFラインの裏に抜け出し、チャンスをつくった。また各選手の出足が鋭く、奪われた後、セカンドボールをことごとく拾ってボールを支配した。
 20分、MF野沢祐弥が高い位置でボールを奪い、ショートカウンター。大塚からのスルーパスに抜け出してシュートを狙うが、これはGKの好守に阻まれた。

 優勢に試合を進めていた富山第一だが34分、思わぬかたちで先制を許した。星稜にPA内までボールを運ばれると、混戦でDFがファールをとられてPKを献上。これをMF寺村介にゴール左へ決められた。

 その後、富山第一は変わらずボールを支配して星稜を攻め込む。しかし、ここまで大会無失点の星稜の守りを崩せないまま、0対1で試合を折り返した。

「絶対あきらめるな。(今大会)ウチは逆転勝ちがないから、神様はドラマチックな逆転勝ちをプレゼントしてくれるだろう。そのためにも、気持ちを入れて(逆転勝ちを)引き寄せよう。最後、ドラマチックに逆転して勝とう」

 ハーフタイム、富山第一の大塚一朗監督はこう言って選手たちを後半のピッチへ送り出したという。監督の言葉を信じ、富山第一イレブンは後半も序盤からボールを支配して相手ゴールに迫った。しかし、体を張ってブロックする星稜守備陣にボールを跳ね返される。すると25分、速攻から左サイドを突破され、最後はFW森山泰希に頭で叩き込まれた。追い詰められた富山第一。点差が縮まらないまま、時間だけが過ぎていった。

 ところが、である。大塚監督のいう“神様”のいたずらか、残り3分からドラマが動き始める。42分、途中出場の高浪が、同じく途中からピッチに入った左MF村井のクロスを受けると、左足でゴールにねじ込んだ。これで国立の空気が一変した。

 富山第一を後押しする声援がより大きくなり、選手たちも力を振り絞って星稜ゴールに迫る。迎えたアディショナルタイム、左サイドで再三、かたちをつくっていたDF竹澤昴樹がPA内で仕掛けて相手に倒された。土壇場でのPK獲得。この大事なチャンスを、主将・大塚が冷静にゴール左に沈めた。

 突入した延長では、両チームがまさに死闘を繰り広げ、2対2のまま時間が過ぎていった。PK戦も視野に入れ、富山第一ベンチは“PK職人”の異名を持つ控えGK田子真太郎投入を準備。しかし、試合は劇的なかたちでフィナーレを迎えた。延長後半9分、村井が逆転弾を決めたのだ。DF城山典が右サイドからロングスローを入れ、二サイドの競り合いからボールが中央にこぼれる。これを村井が左足で打ち抜き、クロスバーに当たってネットを揺らした。残り1分での逆転劇に、国立競技場が揺れた。

「こんなに感動的なフィナーレがあるのかと……感無量です」
 大塚監督はこう優勝の感想を語った。ハーフタイムの言葉通りとなった試合結果に「現実となってびっくりしている」と驚きを隠さなかった。

 あきらめなければドラマは起こる――国立の神様はそれを選手のみならず、見ている人々にも伝えたのかもしれない。

(鈴木友多)