「Sportful Talks」は、ブルータグ株式会社と株式会社スポーツコミュニケーションズとの共同企画です。多方面からゲストを招き、ブルータグの今矢賢一代表取締役社長との語らいを通して、スポーツの新しい可能性、未来を展望します。

 今回のゲストは7人制ラグビー男女日本代表総監督兼同男子日本代表のヘッドコーチを務める岩渕健輔氏です。自国開催のW杯、そして東京オリンピック・パラリンピックを控える日本ラグビー発展のカギとは――。

 

二宮清純: 7人制ラグビーの男女日本代表総監督の役割を教えてください。

岩渕健輔: 強化の責任者という立場です。私は2017年までゼネラルマネジャー(GM)という肩書きで、男女の7人制と15人制全ての日本代表の強化に携わってきましたが、今はオリンピックに力を入れています。

 

今矢賢一: 先日の香港セブンズを現地で観ました。すごく良いゲームが多かったですね。

岩渕: それはとても良いタイミングに来てくださいました。男子日本代表が昇格大会で優勝し、シリーズ全戦に出場できるコアチームに復帰しました。

 

 7人制の強化

 

今矢: 私自身は学生時代にサッカーをやっていました。ラグビー大国のオーストラリアに8年住んでいました。高校でのランチタイムはタッチフットをしていましたね。だからラグビーにも馴染みがあって、観ることはとても好きなんです。7人制と15人制では戦術がだいぶ違いますよね。香港で観たアメリカ代表には元陸上選手がいました。その選手はボールを持つと、スピードを生かして独走していました。

二宮: グラウンドの広さは同じで、人数が約半分ですからね。試合時間は基本7分ハーフです。

 

今矢: だから展開も速くて、エンターテインメント性が非常に高いスポーツだと思います。

二宮: スピードはもちろんですが、ボールも上手くさばけて器用にこなさなければならない。7人制の選手には総合力も必要となってきますね。

岩渕: そうですね。どちらかと言えば足が速くBKの選手が有利です。パワー重視の選手だとある程度、体重を絞る必要もあるかもしれません。15人制では強豪国とは呼べないケニアが7人制で強いというのがひとつの特徴ですね。

 

今矢: ケニアは一目見ただけで身体能力が高そうな選手が揃っていました。

岩渕: 15人制ではワールドカップに1度も出たことのない国ですが、セブンズでは強豪のニュージーランドを倒すこともありますから。

 

今矢: 先ほどのアメリカ代表のように別の競技からポテンシャルの高い選手を転向させるという強化策もありますよね。

岩渕: 日本でも実は多方面からの参入を促しています。アメリカンフットボールの選手や陸上選手で試みたことはあるのですが、なかなかうまくいっていません。アメリカは陸上からの転向組が活躍していますが、彼らは1つの競技にこだわらず、いろいろなスポーツをシーズンに応じて取り組んでいます。

 

今矢: ジュニア時代のクロストレーニングは日本ではあまり多くない。それが影響しているのでしょうか?

岩渕: そこが大きなポイントです。アメリカの選手を見ていると、スムーズに移行できている印象がある。だから陸上からの転向選手でも、ラグビーの動きができているのだと思うんです。

 

二宮: 7人制ラグビーは16年リオデジャネイロオリンピックから正式種目に採用されました。日本ではやはりラグビーと言えば、15人制のイメージが強い。

岩渕: それは間違いなくあります。15人制のラグビーは進学、就職と卒業後のピラミッドがしっかりとできている。現状でラグビーは15人制の文化に支えられています。

 

二宮: そういう状況の中、19年W杯は日本で、翌年にはオリンピックが東京で開催されます。15人制、7人制の双方で強化しなければいけない。

岩渕: 15人制の文化で育ってきた選手をどうやって7人制に移行させるか。7人制の文化を15人制とは別につくっていく必要があるかと考えています。

 

二宮: 将来的には強化を別々にするべきだと?

岩渕: そうせざるを得ないと思います。

 

二宮: 現状では高校、大学において15人制に比べて7人制チームの数は少ない。

岩渕: 女子は7人制のチームの方が多いのですが、男子はとても少ないです。今後はもっとチームを増やしていく必要があると思います。

 

 ラグビー独自の文化

 

二宮: サッカーなどに比べ、ラグビーはルールが複雑だと感じている方もいます。岩渕さんのような専門家に解説してもらいながら観戦できる。そんな観戦スタイルも面白いのでは?

岩渕: そうですね。ヨーロッパではプロチームが解説者付きのサービスを行っています。試合に出ていない選手がホスピタリティボックスに行く。試合後も出場した選手が行って、その日の試合について話します。私もイギリスのチームでプレー経験がありますが、試合後にチームに指示された場所へ行き、語りあいました。

 

二宮: 具体的にはどういう話を?

岩渕: ラグビーに詳しいお客さんからは「なぜあそこであんな判断をしたんだ?」と厳しい質問もあります。そういう意味でもいろいろ鍛えられる場でしたね。

 

二宮: 説明責任の力がつきますね。

岩渕: ええ。自分のプレーが良かった日は当然、行きやすいんですが、ダメだった時はとても行きにくい……。

 

今矢: そういう環境ではホームゲームともなると一段と気合いが入り、下手な試合、プレーはできなくなりますね。

岩渕: そうですね(笑)。ただヨーロッパと違い日本のラグビーでは、そもそもホスピタリティボックスがほとんどありません。

 

今矢: 確かに他の競技でも少ないですよね。

二宮: 選手と触れ合うことでお客さんは喜びますよね。日本でもぜひ取り入れてほしい。ラグビーは試合後にチーム同士で交歓会を行います。ノーサイドの精神で、これはとても良い文化ですよね。

岩渕: 逆にプロのチームだと交歓会、いわゆるファンクションが減ってきています。こうした文化はテストマッチなどの国際試合でもなくなってきているんです。W杯期間中はなかったと思います。

 

二宮: どちらかというとファンクションはアマチュアの古き良き文化なんですよね。

岩渕: 元々はそうなんです。先日、北九州で女子セブンズの国際大会がありました。ファンクションでは日本の選手たちが他国の選手たちと交流を図っていました。彼女たちは将来的に日本のラグビーを支える存在になるかもしれません。ファンクションを通じて友情が生まれ、コネクションができる。この文化は日本が率先して取り戻していきたいですね。

 

二宮: ラグビーには世界ランキングとは別に階層区分があります。ニュージーランドや南アフリカ、オーストラリアなど強豪国・地域をティア1と呼んでいます。この序列はなかなか変えられないものですか?

岩渕: これは日本が強くなってW杯で優勝しても変わらないかもしれません。

 

今矢: 歴史的な背景が影を落としていますね。

岩渕: はい。やはりティア1にチャレンジするというところまでいかないと、世界の舞台では戦っていけないと思います。

 

二宮: 来年のW杯で上位進出を果たし、日本が大会を成功させたら流れが変わってくるかもしませんね。

岩渕: 19年W杯、20年オリンピックの結果次第で、その先の30年、50年の日本ラグビーの未来が決まると感じています。私に課されたミッションは簡単ではありませんが、強化の責任者として、力を尽くしたいと思います。

 

岩渕健輔(いわぶち・けんすけ)プロフィール>

1975年12月30日生まれ。小学3年でラグビーを始める。青山学院大在学中に日本代表初選出。同大卒業後、98年に神戸製鋼入社。その後、ケンブリッジ大学に入学し、99年12月にはオックスフォード大学との伝統の定期戦に出場し、“ブルー”の称号を得た。2000年イングランド・プレミアシップのサラセンズに入団。その後、フランスのコロミエに移籍するなど海外のクラブでプレーした。現役引退後、09年日本ラグビーフットボール協会に入り、ハイパフォーマンスマネージャー、日本代表GMを歴任。同協会理事、日本代表男女7人制総監督を務め、今年6月より男子7人制日本代表ヘッドコーチに就任した。

 

(構成・鼎談写真/杉浦泰介)


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