待ったなし。いざ鈴木みのる戦
専属コーチからそう褒められると、ついその気になってしまう。
試合で掌底が使えるのは嬉しい。これまで関節技や絞め技など寝技中心の練習内容だったのが、最近は打撃練習が主軸となってきた。
昨年のカッキーライドでの道場スパーリングルールと違い、今回の鈴木みのる選手との試合はUWFルールでの試合となるからだ。
UWFルールでの試合はどれぐらいぶりだろう?
Uインター時代は、ブンブン振り回す掌底で外国人選手に嫌がられていたのを思い出す。
力任せのそれはムラがあり、今振り返ってみると反省だらけだ。
「筋肉が落ちた今は、さすがに力でどうこうする発想は起きないですね」
僕は細くなった自身の体を自虐的に笑った。
しかし、元々得意だったフック系より、ストレートが自然に出るようになったのはケガの功名かもしれない。これには自分でも良い手応えを感じている。
「胸の筋肉が落ちた分、まっすぐが出しやすくなったのかもしれませんね。かなりイイですよ」
コーチからも太鼓判を押され嬉しい。
若い頃と違ってオフェンスよりディフェンス面を重視しているところも大きな変化だ。
以前は、スタートと同時にラッシュする先手必勝パターンであったが、最近の練習では防御して攻撃という流れがスムーズにできるようになった。
「相手の攻撃をブロックしたり、ダッキングやスウェー、ウェービング、バックステップしてから掌底を入れましょう」
コーチの言葉を僕は素直に聞き入れ、すぐに動きに落とし込んでいる。
体力や筋肉が落ちたぶん、それを別の部分でカバーしなければならない。そのためにはコーチからの教えを真剣に学び、反復するしかない。僕は練習の度に必ず映像を撮り、自分の動きのチェックを欠かさない。
いろいろな角度から自分の動きを観察してみると様々な発見があるから勉強になるのだ。
「垣原さん、今の動きを映像で確認してみて下さい」
練習中に息子のつくしに撮ったもらった映像を瞬時にチェックする。今はスマホで簡単に動画を撮れるから良い時代だとつくづく思う。
練習方法も体系化されているので、短期間で効率的に上手くなれるのだ。
「あとは試合でいかに練習と同じ状態に持っていけるかだけ」
僕は自分の長所と短所を冷静に分析し、試合ではいかに長所のみで勝負していくかを日夜考えている。
「絶対に勝つ。何がなんでも勝つ。勝たないと意味がない」
自分に言い聞かせるように毎日呟いている。
UWFルールなら勝算があると僕は考えている。そもそも負けるためにリングに上がる馬鹿はいないし、勝たなければもう次はないと思っている。
僕のブランク以上に鈴木選手との30kgもの体重差を不安視する声を耳にするが、その差はスピードでカバーするしかない。
スタミナには自信はないが、スピードに関しては負けない自信がある。
体重以上に先輩後輩の壁を打ち破れるかという精神面も焦点となる。そこを実行委員長のつくしは一番注目しているのだろう。
それに相手は現在進行形のトップレスラー。会場の空気を掴むのが抜群にうまい百戦錬磨なのだ。不安材料を探せば正直きりがない。
だからこそ、僕は徹底的に試合の戦略を練るのである。
それに酷暑が続くこの時期は、ピーキングが要になってくるだろう。試合当日にベストで迎えられるよう、逆算して練習メニューを作成してもらっている。
スキルだけでなく、コンディション面においても神経を使っているのだ。
酷使した部位の筋肉は、ストレッチとマッサージで必ずほぐすよう努め、古傷のある首まわりの筋肉は特に注意している。
乳酸が溜まったと感じたら、ウォーキングでそれを流す。疲労しているからとじっとしているとかえって動きが悪くなるからだ。
体のケアと同じぐらい、食事にも目を向けている。良い油やビタミン、ミネラルを摂るのを心掛けているのだ。
身の危険を感じるほどの暑さが続いているだけに、体調を崩さぬよう食べ物と飲み物にはかなり神経をすり減らしている。このあたりは家族の全面サポートのお陰で絶好調だ。
個ではなく、チームとして総力を挙げて試合に臨めば勝機は間違いなくある。
「チームワークだけは負けないよね」
練習の動画を担当している実行委員長の息子つくしが口を挟んできた。
カッキーライドへの熱量は誰にも負けない。チケットを一枚一枚、家族で手売りしているだけに応援してくださっている方の顔が浮かぶ。
「ヘタな試合、つまらない大会にだけはしたくない」
是非とも会場で、カッキーファミリーの本気度を体感してもらいたい。
(このコーナーは毎月第4金曜日に更新します)