(写真:このスリーパーホールドでレフェリーストップとなった Photo by 長尾迪)

「たったの1分50秒だったのかぁ~」

 14日に行われたカッキーライドでの鈴木みのる戦の試合タイムのことだ。

 

 僕はこの試合のために2018年の夏をすべて捧げたと言っても過言ではない。

 

 夏だけというわけではなく、昨年のカッキーライドが終わってから、1年を費やし、大会の綿密な計画を立て準備を行なってきたのだ。

 

 5月下旬にカッキーライド2018の開催を発表してからは、これ以上ないほどの情熱を注いできた。

 だからこそ、この結果をいまだ受け入れることができない。試合タイムだけでなく、試合後の番外編も含め、僕は鈴木みのる戦を消化できないのだ。つまりまだ試合を振り返ることはできないでいる。

 

 一家でカッキーライドを作り上げていただけにその責任は重い。

 大会パンフレットに寄稿した実行委員長(息子のつくし)の以下の文章を読むと、僕の気持ちを少しは理解してもらえるだろう。

 

「U.W.F.信者は、今や隠れキリシタンだ」

 

 僕は小6のころ、父との仕事で熊本県へ行きました。

 そこで仕事の合間に、隠れキリシタンが信仰を守り続けた地の天草を訪れ、「大江天主堂」を見学しました。ちょうど学校の社会の授業で天草四郎の勉強をしていたので興味があったからです。

 父と一緒にいるとプロレスファンの方から「実はU.W.F.のファンなのです」

 とよく声を掛けられます。僕の目には、今は団体こそないものの水面下で信仰しているまさに信者の姿のように映りました。

 

 そこでリンクしたのが、冒頭の言葉です。

 父からU.W.F.の凄さをいつも聞いているだけに、今はなきU.W.F.が現在もファンの心の中に生きているのだと感じます。

 僕はU.W.F.を知らない世代であるから、ぜひ一度熱狂的空間を肌で感じたいです。

 また、U.W.F.信者の方には当時の記憶を甦らせてまた興奮を味わっていただきたい。そして、U.W.F.の素晴らしさに新たに気づく人を増やせればとも思っています。

 

 だから今年のカッキーライドは僕が実行委員長になって開催し、U.W.F.を完全復活させようと決断しました。

 今年7月に隠れキリシタンは世界文化遺産に登録されました。U.W.F.もまたカッキーライドによって完全復活し、日本の文化として昇華させることができれば幸いです。

 

 以上、実行委員長・垣原つくし

 

(写真:メインの試合後、リングに上がって挨拶する実行委員のつくしさん)

 この文章を読み返すと胸が押し潰される思いだ。僕の思い描いていたUWFを果たして魅せることができたのだろうか? 実行委員長に直接聞けない気の弱い自分がいる。

 

 しかし、その一方で「感動しました」「また来年も是非やってください」と何人ものファンや関係者に声を掛けてもらった。これは素直に嬉しい。SNSなどネット情報でも良い反応だったことは、大会をプロデュースしている身として大きな自信となっている。

 

 実行委員長とそれこそ数カ月間、火の出るような打ち合わせを重ねてきただけにそれが報われた気分だ。

 頭を悩ませながら何度もマッチメークをやり直し、クセのある選手たちをブッキング。ギャラの交渉を含め、決して楽ではなかった。当然ながら生みの苦しみは大きかったのである。

 

 会場にはUWF信者だけが来るわけではないので、色々と趣向を凝らす必要があった。

 がん患者様やそのご家族、養護施設のチビッコたちもご招待しているので、地味なUWFだけの試合では厳しいと判断した。ここが昨年のカッキーライドと大きく違うところだった。

 

 もちろん、お客に媚び、UWFのポリシーを曲げるつもりはないが、大会のパッケージとして考えるとUWFの試合のみよりプロレスの試合を取り入れる方がむしろ良いのではと考え直した。大会を2部構成のようにすることでUWFの世界観がより浮き彫りになると思ったからだ。

 

 第1試合に、がばいじいちゃん選手など笑いありの楽しいプロレスを持ってきたのはそのためでもある。

 2試合目には、UWFの対極に位置するデスマッチ系の選手をブッキングしたのも大きな狙いがあった。

 全身傷だらけの体はインパクトがあり、それだけで日々の過酷な闘いを雄弁に語っている。試合はハードコアな組み立てではなかったもののイス攻撃は朝飯前。プロレスの反則を目の当たりにすることで、ある意味、UWFルールの厳格さを引き立たせる役割を果たしてくれた部分もあったと思う。

 

 後半戦に入る前には、解説者でお馴染みの山崎一夫さんやミスターMCの大江慎さんによるUWFのルール説明を入れ、更に理解してもらうよう努めた。

 

(写真:国の無形文化財に指定されている手妻で後楽園ホールを沸かせた藤山氏)

 今回、初の試みでもあった和式のマジックである手妻も大好評であったのはホッとした。一歩間違えると進行の流れを止めてしまうので、このような余興は敬遠されてしまうが、藤山大樹氏のそれはプロレスファンにも大いに受けた。実行委員長がブッキングしてきた手妻が大成功したのは自分のことのように嬉しい。

 

 後半戦は、トップバッターのキックルールの試合が1ラウンドKOという結果もあり、テンポ良く続き、UWFの試合を見やすくしていったように思う。

 

 ただし、大会の顔はやはりメインの試合だ。ここまですべてが良い流れであったとしても最後が締まらないと大会が成功とは言えないのである。さて、カッキーライドのメインはどうだったのだろうか?

 この試合を振り返り、自分で分析するには、もう少し時間が欲しい。

 

(このコーナーは毎月第4金曜日に更新します)


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