ロシアW杯はフランス代表が20年ぶり2回目の優勝を果たし、幕を閉じました。特にフランスの10番を背負ったFWキリアン・エムバペはすごいインパクトを残しました。“とんでもない怪物が出てきたな”というのが率直な感想です。決勝のクロアチア戦でもきっちりと追加点を奪うなど、結果を出しました。

 

 それにあのスピードは素晴らしい。印象的だったのが、決勝トーナメント1回戦のアルゼンチン戦。前半11分、自陣でボールを持つと一気に加速し、あっという間に相手のペナルティーエリア内に侵入しました。対応したDFマルコス・ロホはファウルで止めるしかなく、見事にPKを誘った。合計3人を抜き去ったあのプレーは圧巻の一言。まだ19歳ですし、将来が楽しみです。まだまだ世界は広いなぁと思ったのと同時に、日本からもああいった若手が出てきて欲しいものですね。

 

 それと、個人的なことを言えば、コロンビア代表のMFハメス・ロドリゲスをもう少し見たかったです。日本代表と戦った時は途中から出てきましたが、コンディションは良くなさそうでした。楽しみにしていた選手の1人だったので残念でしたね。

 

 大会全体を通して、GKのレベルが上がっているなという印象を受けました。GKは勝敗を大きく分ける重要なポジション。それがより色濃く出た大会でした。細かい部分で言うとセービングの技術、パンチングの技術、そしてどちらが正しいのかという判断も世界のGKはレベルが高かったです。

 

 また、GKのレベルが上がった効果もあるのでしょうか。一昔前のような力任せのシュートよりコントロールを重視したシュートが多かったですね。典型例が日本代表MF乾貴士の2得点でしょう。GKを避けるようなシュートがゴールネットを揺らすシーンが数多く見られました。守備力の向上が攻撃力の向上にもつながるのは当然と言えば当然。ボールコントロール力が世界的にも向上していると感じる大会でした。

 

 誠実で熱い森保新監督

 

 日本代表の監督に森保一が就任しました。森保にはブレないサッカー理論がしっかりあります。現役時代、日本代表で一緒だった時も、彼とは建設的な意見交換ができました。それに紅白戦で同じチームで出場しても、とてもやりやすい。派手さはないものの、サッカーの肝や要所をしっかり抑えている。ボランチで敵の攻撃の芽を摘む役割を果たしていたので“サッカーとは何ぞや”というのがわかっている人材です。

 

 サッカーの知識が豊富なうえに、選手たちとのコミュニケーションもうまいですよね。選手が何を考えているのかをよく観察している。その上で自分の考えを伝えているのでしょう。選手の思いも汲み取りつつ、自分の哲学をチームに浸透させるのは監督にとって大事なことです。森保はそれができる人物ですね。

 

 サンフレッチェ広島を率いていた時は、3-4-2-1が基本システムながら攻撃時は5トップ、守備時には5-4-1になる可変システムを採用していました。これを日本代表でも採用する可能性は高そうです。

 

 クラブチームとは違い、代表は活動時間が限られます。クラブのように浸透させるのは容易ではない。でも、だからと言って諦める必要はないと僕は思います。今の選手の個々の能力は高い。様々なシステムに対応できるだけの人材は揃っています。選手選考も彼の手腕の見せ所ですね。

 

 代表で可変システムを機能させるためにはミーティングで個々の役割をはっきりさせることが重要です。「攻撃的に行くとき、あなたはこうしなさい。守備時にはどこにポジションを取りなさい」といった約束事を決めるのです。個々の役割さえ明確にすれば浸透させる時間は短くなるかなと思います。

 

 非常に誠実なキャラクターですが、サッカーに関しては熱い一面を持った男です。ぜひ彼には日本人の特性がいきるサッカーを展開してもらいたいですね。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。