「オレがルールブックだ!」

 かつて、こう叫んだ審判員がいる。パ・リーグの名物審判として鳴らした二出川延明だ。

 

 

<この原稿は2018年7月27日号『漫画ゴラク』に掲載されたものです>

 

 時を遡ること今から59年前の夏、毎日大映オリオンズ対西鉄ライオンズ戦で“事件”は起きた。

 

 クロスプレーに対し二塁塁審が下した「セーフ」のジャッジに、ライオンズの三原脩監督が「アウトじゃないか」と詰め寄ったのだ。

 

「同時はセーフだ」と塁審。「いや、アウトだ」と三原。「ならばルールブックを見せてくれ」となおも食い下がる三原に審判控え室にいた二出川が先のセリフで一喝したというのである。

 

 これにはメディアの脚色説もあるが、理想の審判として、今も真っ先に二出川の名前があがるのは、こうした毅然とした態度がファンに支持されたからだろう。

 

 その意味で、オリックス対福岡ソフトバンク10回戦での誤審は、将来に禍根を残すものだった。

 

 問題のシーンを振り返ろう。3対3の延長10回表2死一塁、左打席にはソフトバンクの中村晃。オリックスのマウンドは5人目の近藤大亮。

 

 振り切った打球はライトポール際へ。アナウンサーは「大きなファウルボール」と見たままを口にした。一塁塁審もファウルと判定した。

 

 ここでベンチを出たのがソフトバンクの工藤公康監督だ。今季から導入されたリクエスト制度に基づき、リプレー検証を求めたのである。

 

 結果はホームラン。ソフトバンクには貴重な2点が入り、そのまま逃げ切った。

 

 話を複雑にしたのは試合後の責任審判のコメントだ。

「試合後にコマ送りで何度も映像確認したところポールの上に白いものがある。これはファウル」

 

 要するにリプレー検証のやり方が間違っていたというわけだ。誤審を減らすために導入された制度が、よりによって誤審の原因になるとは……。

 

 当然のことながらオリックスはホームランの取り消しを要求し、当該プレーの前からの試合のやり直しを迫った。過去にも、こうしたケースは一例だけ報告されている。だが、これはNPBによって却下された。

 

 パ・リーグのアグリーメントには「確証のある映像がない場合には審判団の判断とする」との一文がある。ならば、最初のジャッジ通りでよかったのではないか。

 

 自らをルールブックだと言い切るのには勇気がいるだろうが「ここはオレに任せてくれ」くらいのことは言ってもバチは当たるまい。審判には度胸も必要である。

 


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