佐賀県民はさぞかし喜んでいるだろう。広島・緒方孝市監督、埼玉西武・辻発彦監督。佐賀県出身者がセ・パ両リーグを制した。

 

 早速、佐賀新聞のウェブ版をのぞいてみた。<日本シリーズで佐賀対決が実現すれば県民として誇らしく大きな喜びである。緒方、辻両監督は甲子園出場の経験はないが、地道に練習を重ねてプロで才能を開花させた努力家で、スポーツに熱中している子どもたちに夢を与える舞台にもなるはずだ>(9月27日)。西武が10年ぶりのリーグ優勝を決める3日前の記事だ。

 

 周知のように緒方は鳥栖市、辻は小城市の出身である。高校は緒方は地元の鳥栖高、辻は佐賀東高に進んだ。ともに県立校だ。記事にもあったように、ふたりとも甲子園出場経験はない。

 

 余談だが、佐賀県からは佐賀商(1994年夏)、佐賀北(2007年夏)の2校が甲子園優勝を果たしている。この両校とも県立校だ。ノーマークながら6試合を勝ち抜き、トーナメントの頂点に上り詰めた。私立全盛の今、この30年で夏の甲子園を制した公立校は両校の他には、ともに伝統校の広島商(88年)、松山商(96年)の2校だけ。その意味で佐賀県は公立校の最後の砦とも言える。

 

 佐賀県の人口は隣の福岡県の人口の6分の1程度。そのため佐賀県出身ながら福岡県出身と間違われる選手も少なくない。どうせ間違われるのだからと最初から福岡県出身を名乗った自虐的な選手もいた。シャレではないが、「悲しいサガ」である。

 

 佐賀県からは、これまで3人のNPB監督が誕生している。98年、横浜を38年ぶりのリーグ優勝、日本一に導いた権藤博(鳥栖市・鳥栖高)、そして緒方と辻である。就任2年目で辻が胴上げされたことにより、3人とも優勝経験監督となった。

 

 ところで「武士道と云うは死ぬ事と見つけたり」で知られる「葉隠」の一節は佐賀県民のクレドのようなものだが、勝負の世界に生きる野球の監督には向いているのかもしれない。監督に就任したばかりの頃、辻に「葉隠」について感想を求めると「どうせやられるんだったら、やるだけやって前向きにぶっ倒れようと。僕は腹をくくってますよ」と答えたものだ。

 

 参考までに述べれば、日本シリーズで同県出身監督対決が実現すれば、香川県出身の三原脩(西鉄)と水原茂(巨人)が雌雄を決した1958年以来、60年ぶりとなる。

 

<この原稿は18年10月3日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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