12日、日本サッカー協会(JFA)は6月12日(現地時間)からブラジルで開催されるFIFAワールドカップに出場する23名の日本代表を発表した。アルベルト・ザッケローニ監督はFW本田圭佑(ACミラン)、FW香川真司(マンU)ら、発足当時からチームの軸としてプレーしてきた選手を多く選出。FW柿谷曜一朗(C大阪)、MF青山敏弘(広島)ら、いわゆる“東アジア杯組”からも6名が選ばれた。そして、FW大久保嘉人(川崎F)もメンバー入り。昨季のJ1得点王の名前が読み上げられた瞬間は、会場の報道陣からどよめきが起きた。登録メンバー30名の残り7名およびサポートメンバー2名は、明日、発表される。
(写真:「手元に最高のチームがある」と23名の人選に自信をのぞかせた。撮影:杉浦泰介)
<ブラジルW杯日本代表メンバー23名>

GK
川島永嗣(スタンダール・リエージュ)
西川周作(浦和レッズ)
権田修一(FC東京)
DF
今野泰幸(ガンバ大阪)
伊野波雅彦(ジュビロ磐田)
長友佑都(インテル・ミラノ)
森重真人(FC東京)
内田篤人(FCシャルケ04)
吉田麻也(サウサンプトン)
酒井宏樹(ハノーファー96)
酒井高徳(VfBシュツットガルト)
MF
遠藤保仁(ガンバ大阪)
長谷部誠(1.FCニュルンベルク)
青山敏弘(サンフレッチェ広島)
山口蛍(セレッソ大阪)
FW
大久保嘉人(川崎フロンターレ)
岡崎慎司(1.FCマインツ05)
本田圭佑(ACミラン)
香川真司(マンチェスター・ユナイテッド)
清武弘嗣(1.FCニュルンベルク)
柿谷曜一朗(セレッソ大阪)
齋藤学(横浜F・マリノス)
大迫勇也(TSV1860ミュンヘン)

 人事を尽くして天命を待った大久保

 日本サッカーにとって、5回目となったW杯のメンバー発表でも、ドラマが起きた。MF登録でMF青山敏弘(広島)の名が呼ばれて生じたざわつきは、指揮官が「オオクボ」と口にした瞬間、どよめきに変わった。
(写真:手にしたメンバーリストを読み上げるザッケローニ監督。撮影:杉浦泰介)

「アジアカップ、W杯最終予選を勝ち抜き、東アジアカップ、コンフェデレーションズカップ、親善試合を戦い、この23人に絞った」
 ザッケローニ監督はこう選考過程を説明した。その中で、大久保がザックジャパンでプレーしたのは、12年2月の親善試合アイスランド戦の1試合のみ。手元で情報を得ることを重視してきたザッケローニ監督にとって、大久保選出はまさに“異例”だ。指揮官は、31歳のストライカーのどこを評価しているのか。

「今までどうして、大久保を呼んでこなかったか。(大久保は)経験があり、嗅覚があり、どこに行けばチャンスが生まれるかを知っている選手だ。そういう意味で、今まではそれ(大久保)以外の選手を成長させることが大切だった。大久保はクオリティーが高く、30歳を越えているけれど、フィジカルも衰えていない。また相手に読まれない動き、意外性も持っている。就任当初はケガに悩まされていたというイメージがあるが、ここ1年半の彼のプレーは素晴らしいものだった」

 大久保は昨季、J1で得点王に輝き、今季もここまで日本人トップの8ゴールを決めている。メンバー発表前最後のJ1第13節鹿島アントラーズ戦で2ゴールをマークし、「(メンバー発表を)気持ちよく待てる。選ばれたらサプライズ」と笑顔を見せていた。奇しくも、5月12日は昨年に亡くなった父・克博さんの命日。一周忌に最高の報告ができたに違いない。

 気になるのは大久保の起用法だが、ワントップよりも、2列目のサイドハーフが濃厚だろう。運動量が求められるポジションだが、ここまでリーグ戦でフル出場を続ける大久保にスタミナ面の不安はない。それでも、両サイドハーフには香川、FW岡崎慎司という不動のレギュラーがいる。それらを踏まえると、ザッケローニ監督は途中出場でジョーカー的な役割を大久保に期待しているのではないだろうか。大久保の鋭い動き出し、自らもドリブルで仕掛ける積極性は、疲れが出てくる試合中盤以降に有効だ。ミドルレンジからゴールを狙えるシュート力も、ザックジャパンには少ないオプションである。

「代表でやれる自信? 全然あるよ。控えでも問題ない」
 発表前、大久保はこう語っていた。Jリーグで結果を残し続けることで掴んだ代表の座。今度は、選出に見合う結果をW杯という舞台で出せるか。大久保の戦いはここからだ。

 ザッケローニ監督「相手に脅える必要はない」

 一方で、大久保以外の選出結果は、順当といえる。本田、香川ら発足当時から中心としてプレーしてきた選手が多く名を連ねた。また、先日、約5カ月の離脱から復帰したMF長谷部誠(ニュルンベルク)、ケガで戦列を離れているDF内田篤人(シャルケ)、DF吉田麻也(サウサンプトン)もメンバー入りを果たした。現時点でコンディション面に不安が残る3人の選出については、指揮官が所属クラブや代表のスタッフと話し合い、「合流するタイミングから、100パーセントの状態でトレーニングできる」と判断したかたちだ。

 選考で悩んだポジションについてはボランチを挙げた。2列目と同様に激戦区のひとつであり、今回はこれまで招集されてきたMF細貝萌(ベルリン)、MF高橋秀人(F東京)、MF中村憲剛(川崎F)らが23名から漏れた。特に細貝は今季、ヘルタ・ベルリンで出場した33試合(34試合中)すべてにスタメン出場を果たしていた中での落選だった。
「ボランチの枠を4枚にするのか、5枚にするのかは悩んだところ。細貝は青山が入ったから外れたのではない。決断に至った理由としては、どこまでユーティリティーに使えるのかを考え、最終的にこのメンバーを選んだ」

 指揮官は選考基準のひとつに「できるだけ多くの選手が2つ以上のポジションをカバーできること」を設定した。たとえば本田はトップ下、ワントップ、サイドハーフ、状況によってはボランチでもプレーできる。その意味で、青山はボランチ以外にサイドハーフとしてもプレー経験がある。組み立て役としての能力も申し分なく、MF遠藤保仁(G大阪)のバックアッパーとしては最適だろう。
(写真:激戦区のボランチで選出された青山。撮影:鈴木友多)

「自分たちのやりたいサッカーがあり、それを出すためには主導権を握っていかなければいけない。リアクションサッカーに徹するのではなく、やりたいことを出せる選手、そういったものを選考基準に入れた」
 この選考基準に則して言えば、青山は4月に行われた代表候補合宿でも、縦パスを多く供給していた。“縦へ速く”はザックジャパン発足当時からのコンセプト。より代表のサッカーに適応し得るのが、青山だったのだろう。

 気になる今後のスケジュールだが、海外組でまだリーグ戦を残している選手もおり、23名全員が揃うのは鹿児島合宿中(21日〜)の23日と見られている。合宿後は27日に埼玉でキプロス代表と親善試合を行い、事前合宿地の米国へ向かう。米国でコスタリカ代表(6月3日)、ザンビア代表(同7日)とのテストマッチを経て、ブラジル入りする。その上で、ザッケローニ監督は「最高のフィジカルコンディションでW杯に臨みたい」と述べた。前回の南アフリカW杯では、高地順応を徹底し、ベスト16につなげた。やはり指揮官も本番へ向けて、コンディショニングがポイントになると考えているようだ。

「私が(選手に)伝えていきたいのはW杯の舞台で、相手を気にせずに自分たちのサッカーをしようということ。相手にリスペクトは払わなければいけないが、脅える必要はない。チーム全員が臆さず、思いきりW杯で戦うことが大切だ」

 ザッケローニ監督はW杯での戦い方についてこう強調した。負けはしたが、コンフェデ杯でイタリアを苦しめた時の日本からは、相手に脅えるという印象は感じとれなかった。昨年の欧州遠征で引き分けたオランダ戦、勝利を収めたベルギー戦然り……。強豪相手にパスワーク、俊敏性といった日本らしさをぶつけていた。W杯本番でも、同様の戦い方ができるか。ザックジャパンの物語は、いよいよ最終章へ突入する。