豊予海峡の東側の愛媛県で生まれ育った私は、西側の大分県人に対し、いささかコンプレックスがある。

 

 いい例が豊予海峡で獲れるアジやサバだ。西側の大分県側の佐賀関で水揚げされると「関アジ」「関サバ」となり、高値で取り引きされる。ところが愛媛県側の伊方町(佐田岬漁港)に揚がると「岬(はな)サバ」「岬(はな)アジ」となり、値段は大体、半分以下とされる。

 

 そもそも岬の下に、わざわざ(はな)と書かなければならないところに当方の弱みがある。ブランド力の違いと言えばそれまでだが、ネーミングは重要である。

 

 断っておくが、豊予海峡を泳ぐアジやサバに「私は大分県産」「僕は愛媛県出身」と名札が付いているわけではない。にもかかわらず、この格差。大分県側のブランディングの勝利である。

 

 余談だが、ブランドの語源は英語の「Burned」(焼けた)からきているといわれる。焼かれたもの、刻印されたもの。そうであるなら、人々の脳裡に一度刻まれた記憶を払拭するのは容易ではない。「岬アジ」「岬サバ」が「関アジ」「関サバ」と同等の評価を受ける日はやってくるのだろうか。

 

 スポーツにおいても、このところ愛媛県は大分県の後塵を拝し続けている。大分県は2002年サッカーW杯に続き、19年ラグビーW杯の招致にも成功した。ニュージーランド、オーストラリア、ウェールズら強豪チームの試合がナマで見られるのだ。昨年暮れに会った際、広瀬勝貞知事は、「世界最高峰のチームが目白押しでやってくるので、大分県の皆さんには、ぜひ観戦に行くなり、雰囲気を楽しむなりして、ラグビーW杯を存分に体感してもらいたい」と誇らし気に語っていた。

 

 大分県だけではない。九州は福岡県、熊本県も含め3会場で熱戦が繰り広げられる。翻って四国はサッカーW杯に続き、ラグビーW杯でも空白区なのだ。空白区と言えば中国地方も同様である。

 

 今さら嘆いても詮ないことだが、国際スポーツイベントにおけるこの地域間格差は何とかならないものか。広瀬知事は「ラグビーを通じて、より広い世界へとつながっていける」と語っていた。東京への一極集中が進む日本にあって、ローカルの生き残る道はグローバルへのアクセスである。スポーツは、そのための貴重なツールでもある。

 

<この原稿は19年1月23日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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