「野球のまち」として知られる徳島県阿南市に所在する富岡西高が「21世紀枠」でのセンバツ初出場を決めた。創立123年の歴史を誇る伝統校だ。2015年より「あなん未来会議委員」を仰せつかっている身として、心よりお祝い申し上げたい。

 

 阿南市に「野球のまち推進課」が設置されたのは2010年4月のことだ。その3年前に5000人収容の「JAアグリあなんスタジアム」が完成したことを受け、野球によるまちおこしの機運が生まれ始めた。

 

 ここまでならよくある話だが、阿南市の場合はアプローチが違っていた。その代表的な例が中高年の還暦野球大会である。昨年は4月21日と22日の2日間、県外12チームを含む27チーム、約570人が参加して熱戦が繰り広げられた。

 

 それを応援するのが地元の60歳以上の女性で構成する「ABO60」と呼ばれるチアガールである。聞けば「アナン・ベースボール・オバチャン」の略らしい。元々、彼女たちは老人ホームの慰問などを中心に活動していた。現在、その数は60人を超えているという。

 

 還暦野球といいABO60といい、高齢化社会を憂うのではなく、それを逆手にとった企画がウケている。野球を通じて「元気な高齢者が集うまちづくり」は、人口減少や少子化に直面する地方都市にとって、ひとつのモデルケースとなるだろう。

 

 今から2年前の3月、「野球のまち阿南推進協議会」総会において、ひとつアイデアを提供した。「野球寺」の建設である。四国といえば霊場88カ所、89が“やきゅう”と読めることから命名したのだ。いわば「寺」と「野球」のイノベーション(新結合)である。

 

 寺といっても、本物の寺ではない。バッターとグローブをイメージした御影石型のモニュメントを同市那賀川町の道の駅に設置し、ほこら風に仕立てたのだ。

 

 ご利益はあらたかだったようだ。推進課の田上重之さんは語る。「必勝祈願に訪れた敦賀気比、四国アイランドリーグの徳島インディゴソックス、中国プロ野球の天津ライオンズも優勝しました。阿南で合宿を張り、野球寺にお参りをしたら優勝する。そういう流れができつつあります」。そして、こう語気を強めた。「富岡西も甲子園に出発する前に野球寺で必勝祈願する予定です。なにしろ日本でたった一つの“野球のまち”の代表ですから…」

 

<この原稿は19年1月30日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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