サッカー日本代表監督の森保一は、アジアカップが開催されるアラブ首長国連邦に旅立つ前、もちろん優勝を目標には掲げたものの、それ以上に「(決勝まで)7試合戦い抜くこと」を強調していた。

 

 

「1試合、1試合、勝利を目指して戦うことでチームが成長し、最後にタイトルにたどり着ければいい」

 

 残念ながら決勝ではカタールに1対3で敗れたものの、とりあえず及第点を与えてもいいのではないか。メールで健闘を称えると、<プレッシャーの中、選手たちは本当によく頑張ってくれた。7試合を通じて、チームは確実にレベルアップできたと思う>との返信があった。

 

 A代表の監督に加えメダルを目指す東京オリンピックの代表監督も務める森保に課されたミッションは世代交代である。

 

 ロシアW杯では28・2歳で「おっさんジャパン」と揶揄された代表選手の平均年齢が、今回のアジアカップでは26・8歳にまで若返った。

 

 その世代交代の象徴ともいえる選手が1998年11月5日生まれのセンターバック冨安健洋である。188センチの長身は、ひときわ目を引く。まだ伸びるかもしれない。

 

 19歳でベルギーリーグ1部のシントトロイデンに移籍した冨安の代表デビューは、昨年10月のキリンチャレンジカップだった。

 

 その1カ月後、強化試合のベネズエラ戦で冨安は驚愕のプレーを披露した。相手のシュートがGKの手をかすめ、まさにゴールラインを割ろうとしたその時、体を投げ出してスライディングを試み、右足の先でシュートをかき出してみせたのだ。

 

 指揮官は代表選手に求める条件のひとつに「ひと粘り」をあげる。「もうひと粘りできる選手」こそが大舞台で輝けるというのである。

 

 試合後、森保は次のように冨安を絶賛した。

「あの場面で“ひと粘り”してボールをかき出せるというのは、前もって危機を察知していた証拠。彼は常に動きを止めずに全力でプレーしている。代表にとって必要な選手です」

 

 アジアカップでも冨安のプレーは異彩を放っていた。76.3%と圧倒的にボールを支配された準々決勝のサウジアラビア戦。ヘディングシュートによる虎の子の1点は冨安の高い打点から叩き出された。

 

 3対0で完勝した準決勝のイラン戦では、それまで4得点を記録していたエースのサルダル・アズムンを密着マークし、仕事らしい仕事をさせなかった。

 

 元日本代表DF大野俊三は、こう言って舌を巻いた。

「アズムンに対して一度体を当てたかと思えば、今度は敢えて距離を取る。駆け引きの巧みさは、とても20歳のそれには見えなかった」

 

 このように冨安の評価は天井知らずである。この先いったい、どこまで成長するのか。

 

 ちなみに健洋には「健康で、太平洋のよう広い心を持った人間に育ってほしい」との両親の願いがこもっているという。太平洋同様、プレーの「底」と「幅」も規格外である。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2019年3月3日号に掲載されたものです>

 


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