女子サッカーにおいて、世界一を決める舞台はオリンピックとワールドカップ(W杯)である。



2011年ドイツW杯で、初めて世界の頂点に立ったなでしこジャパン(サッカー日本女子代表)は、12年ロンドン五輪、そして、この6月から7月にかけて行われたカナダW杯でも準優勝を果たし、その実力が依然として世界のトップレベルを維持していることを証明した。

先のカナダW杯、なでしこは決勝の米国戦こそ、2対5と大敗を喫したが、1次リーグのスイス戦を皮切りに、カメルーン戦、エクアドル戦、決勝トーナメント1回戦のオランダ戦、準々決勝のオーストラリア戦、準決勝のイングランド戦と、すべて1点差を制して勝ち上がってきた。そこに、なでしこのしぶとさとしたたかさを見る思いがした。

チームを束ねたのが、 30歳のキャプテン宮間あやである。157センチの身長は、平均身長164.8センチと小柄なチームにあっても、ひときわ小さく感じられた。ちなみに準決勝で戦ったイングランド代表は平均169センチである。

しかし、彼女の戦術眼と技術は他の追随を許さない。前回大会で優勝した際、なでしこは「女性版バルセロナ」との高い評価を受けた。それも宮間がいればこそである。

司令塔の彼女は両足で質の高いボールを蹴ることができる。その理由がおもしろい。
「母はバスケットボールの経験者なのですが、バスケットボールの選手は、どちらの手でもボールを扱うことができる。ある日、サッカーを始めた私に “どうして両足で同じようにボールを操れないの? ”と聞いてきたんです。それが悔しくて、両足で蹴れるような練習に取り組んだ。もともとは右利きなのですが、今は左足の方が癖のない素直なボールを蹴ることができます」

余談だが、彼女を読売の下部チーム時代から知るラモス瑠偉(現FC岐阜監督)は「男女を問わず、今日本で最も魅力的なプレーをするのが宮間。彼女のパスの意図を読むだけでおもしろい。ワクワクするよ」と語っていた。日本が世界の女子サッカーに誇るファンタジスタと言えよう。

その宮間の口ぐせは「女子サッカーをブームではなく文化にすること」。ブームには終わりがあるが、文化は長い時間軸の中で形成されていくものだ。

<女子サッカーのユニホームを着た女の子が、女子サッカーの試合が行われるスタジアムに向かう光景が普通に見られたら文化だと思う>(毎日新聞7月10日付)

なでしこリーグ1部は、初めて女子W杯を制した11年、一試合平均2796人の観客を集めたが、今季(W杯中断前まで)は1456人にまで減少した。
代表の成績が観客動員数に直結する現状は、まだ女子サッカーが地域に根ざした文化として成立していないことを示している。

プレー同様、言動でも女子サッカーを牽引する宮間。翌年に迫ったリオデジャネイロ五輪でも、彼女のキャプテンシーに期待が集まる。

<この原稿は『サンデー毎日』2015年8月2日号に掲載されたものです>


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