かつて「アジアの大砲」と呼ばれたサッカー元日本代表FW高木琢也(現・大宮監督)の身長は184センチである。しかし、現役時代は「188センチ」で通していた。

 

 こうした数値の“ごまかし”を、この国では「サバを読む」という。なぜ「マグロ」でもなければ「サンマ」でもないのか。

 

 語源はこうだ。<魚のサバは傷みやすく数も多かったため早口で数えられ、実際の数と合わないこと>(語源由来辞典)に由来する。

 

 いい加減といえばいい加減だが、こうした“ごまかし”は、スポーツの世界においては目くじらを立てることではない。当時の日本代表監督ハンス・オフトはポストプレーのできる長身の「ターゲットマン」を探していた。184センチの選手と188センチのどちらかを選べとなったら、誰だって後者を選ぶだろう。

 

 加えていえば、188センチの長身FWがいると聞いただけで相手は脅威を覚える。マークがきつくなる分、仲間への警戒が緩む。すなわち「サバ読み」は戦術のひとつでもあるのだ。

 

 今年はラグビーイヤーである。W杯日本大会の前哨戦となるパシフィックネーションズ杯が7月27日に開幕する。日本、カナダ、サモア、フィジー、アメリカ、トンガの6カ国でティア2の「環太平洋王者」を決める。

 

 3日、ラグビー協会が発表した代表メンバーの中に38歳のトンプソン・ルークの名前があった。2007年、11年、15年と3大会連続でW杯に出場しているベテランのロックである。

 

 トンプソンといえば15年大会の南アフリカ戦の名シーンが思い浮かぶ。試合終了間際、ジャパンはPGではなくスクラムを選択した。その際に彼は叫んだ。「歴史を変えるのダレ?」。「それにタイトファイブ全員が共鳴して“オレらだ!”と答えた。彼の言葉はすごく胸に響きました」。そんな話を披露してくれたのはロックの真壁伸弥である。

 

 トンプソンは17年6月のアイルランド戦で、故障者の穴を埋めるため、1年8カ月ぶりに代表復帰した。ESPNによれば彼のタックル成功数は26回。両チームトップの数字だった。

 

 196センチの長身ロック。麻雀なら、それだけでイーハンついたようなものだが、元日本代表ロックの大野均によれば「192センチの僕と並んでも、そんなに変わらない(笑)」。いや、大野の身長が4センチ伸びたのだと私は解釈している。頼れる男が戻ってきた。

 

<この原稿は19年6月5日付『スポーツニッポン』に掲載されたものを一部再構成しています>


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