米国大統領として初めて大相撲を観戦し、黒いスリッパで土俵に上り優勝力士の朝乃山にトロフィーまで手渡したドナルド・トランプ氏。本紙(5月27日付け)1面の見出しは<トランプ場所>だった。

 

 一方で批判もあった。なぜわざわざ升席の最前列にヒジ掛け付きのソファを設ける必要があったのか。セキュリティを重視するなら2階の貴賓席で十分だったのではないか。

 

 政府と相撲協会は悪しき前例をつくった。もし今後、外国の国家元首がトランプ氏と同様の扱いを求めた場合、どうするのか。「米国大統領だけは特別」と言って断れば、ダブルスタンダードになってしまう。「伝統文化」の守護神を自認する相撲協会なのだ。どんな“外圧”や“内圧”があったか知らないが、もう少し“粘り腰”を見せてもらいたかった。

 

 それにしても、大相撲名物の“座布団投げ”が<刑法第208条暴行罪>に抵触するとは知らなかった。<2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料>。江戸時代からの習わしも許されないのか。住みにくい世の中になったものである。

 

 私見を述べれば、トランプ氏には大相撲よりも日本のプロレスを観戦してもらいたかった。トランプ氏は2013年にWWEの「殿堂」入りを果たしている。ビンス・マクマホンオーナーとのレスラーを介した代理戦争が人気を呼び、その功績が認められたのだ。相手をこきおろすヒール風の演説スタイルは、リングで磨かれたものだ。

 

 日本のプロレス関係者にも知己は多く、米国でキム・ドクを名乗るタイガー戸口も、そのひとり。こんな裏話も。<安倍首相と会談したときにハンバーガーを食べていたけど、彼はハンバーガーもコーラも好きじゃない(笑)。トランプはイタリアンが好きで、いつもパスタとビザに赤いワインだった。『アメリカの象徴』であることを意識しているんだろうな>(「FRIDAY」18年6月8日号)

 

 トランプ氏の性格からして升席のソファは居心地がよくなかっただろう。リングサイドなら乱闘に参加することもできるし、マイクで思う存分、敵をののしることもできる。ユーチューブには自らに批判的な「CNNの記者」をラリアットで倒し、馬乗りになってボコボコにしている合成動画が投稿されている。水を得た魚のようですらある。

 

<この原稿は19年5月29日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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