ラグビーW杯はサッカーW杯、夏季オリンピックに次ぐ、世界で3番目のスポーツイベントと言われている。

 

 そのラグビーW杯日本大会が開幕した。アジアでは初、英国と英連邦以外では2007年のフランス大会に次いで2度目である。

 

 ラグビーには憲章がある。「INTEGRITY」(品位)、「PASSION」(情熱)、「SOLIDARITY」(結束)、「DISCIPLINE」(規律)、「RESPECT」(尊重)――。

 

 イングランドで生まれたラグビーは慣習法の精神によって成り立っている。ひらたく言えば、成文化されていなくても、人として守られなければならないものがあるよね、やっちゃいけないことがあるよね、というモラルがベースにあるのだ。「紳士のスポーツ」と呼ばれる所以である。

 

 当然のことながら、「紳士」には嗜みがある。たとえば試合後に行われる「アフターマッチファンクション」でのマナー。ラグビーの世界では左手でビールグラスを持つことが“暗黙のマナー”とされている。

 

 なぜか。日本ラグビー史上最多の98キャップを誇る大野均選手に聞いた。

「オーストラリアやニュージーランドなど海外の人たちには左手は“不浄”という考え方が強いので、必ず右手で握手をする。ところが冷たいグラスを持っていたら右手は冷え切り、それで握手をすれば相手に失礼にあたる。だから、グラスは左手で持つんです。もし右手で持っているのが見つかったら、一度グラスの中のお酒を飲み干してから左手に持ち替えないといけない。だからラガーマンは皆、自然と左手でグラスを持つようにしていますね」

 

 ラグビーファンはフレンドリーだ。試合が終われば、パブに直行し、敵味方関係なくビール片手に互いの健闘を称え合う。これもまた“ノーサイドの精神”の発現と言っていいだろう。

 

 気になるのは愛煙家への配慮だ。東京オリンピック・パラリンピックの場合、2020組織委員会は、競技会場の敷地内での完全禁煙を方針として打ち出した。その一方で、ラグビーW杯2019組織委員会はスタジアムの敷地内に屋外喫煙所を設けることを決めた。この決定の背景には、「様々な文化背景を持つ世界の国や地域から集まる人々に快適な観戦環境を提供する」という理由があるようだ。一律に喫煙者を排除するのではなく、マナーを守って共存を模索するという方向性は、ひとつの見識だろう。例えば、東大阪市の花園ラグビー場の屋外喫煙所は、ラグビーグラウンドを模したユニークなデザインとなっている。国や地域の垣根を越え、喫煙所で育まれる友情もあるだろう。

 

 オリンピックの開催期間が約2週間、サッカーW杯が約1カ月であるのに対し、ラグビーW杯は約1カ月半に及ぶ。また試合会場は北海道から九州まで12会場と広範囲だ。海外から訪れたラグビーファンに、どんな“おもてなし”を提供できるか。かゆいところに手が届く、キメ細やかなサービスが求められる。


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