最高気温が35度以上の日を「猛暑日」という。8月に入ってからの東京の「猛暑日」は8月18日時点で10日に達し、1995年に並んだ。

 

 

 この時期、たまたまタイのバンコクに住む友人が夏休みを利用して帰国していた。

「東京は暑いねェ」

 

 開口一番、汗を拭きながら言い、こう続けた。

「タイも暑いけど、東京は暑さの質が違う。夜も蒸し暑いし、風も吹かない。不快指数の高さはバンコクの比じゃないよ」

 

 東京はこの100年で、3度前後、平均気温が上昇したというデータがある。ヒートアイランド現象(都市の中心部の気温が郊外に比べて島状に高くなる現象)がその一因らしい。

 

 近年、東京湾岸には高層ビルやタワーマンションが林立し、海からの風が遮断されるようになった。これがヒートアイランド現象を、さらに加速させているというのである。

 

 来年7月に開幕する東京五輪。女子マラソンは8月2日、男子は9日、競歩の男子50キロは8日に行われる。

 

 過酷なのはマラソンよりも競歩だ。男子50キロは7時半のスタート時間を5時半に変更したといっても、「焼け石に水」だろう。アスファルトには余熱がこもっており、売り物の遮熱性舗装の効果も疑わしい、との見方もある。リオ五輪の優勝タイムは3時間40分58秒。猛暑の中の4時間前後のレースは“死の行軍”を連想させる。

 

 そんな中、20キロの世界記録保持者である鈴木雄介が、東京五輪のコース変更を求めた。

「全く日陰がない。脱水(症状)になっても、おかしくない」

 

 コースを設定するのは大会組織委員会であり、それを国際陸連が承認する。この時期に選手が声を上げるのは勇気がいるものだ。勝負以前に、人命に対する危機感の表れと重く受け止めたい。

 

 陸連関係者の中には「死人が出るかも」と冗談めかして話す者もいるが、冗談が現実になってからでは遅過ぎる。コースの再考は必至である。

 

<この原稿は『週刊大衆』2019年9月19日号に掲載されたものです>

 


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