Jリーグでも2020年からJ1でのVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の導入が決まった。ひと足先に導入している欧州の主要リーグでいろいろと議論が巻き起こっているが、はっきり言えるのは最終決断を下すのは、テクノロジーではなく、あくまで主審だ。

 

 VARは主審をサポートする立場であり、PK事案など対象のプレーで明確な誤審を避けるためにできた制度であることを押さえておく必要がある。

今年のコパ・アメリカでの事象をテーマにしたジャッジを検証したDAZN(ダゾーン)の「Jリーグジャッジリプレイ」で、JFA審判委員会のレイモンド・オリバー副委員長も「VARの存在意義」についてこう語っている。

 

「大事なことは正しい判定を導くために使っているのではなく、主審が明らかなミスをしたのかどうかをチェックするためのもの。そうでなければ逐一ゲームを止めなければならなくなってしまう」

 

 IFAB(国際サッカー評議会)の競技規則には主審の権限として「試合に関して競技規則を施行する一切の権限を持つ主審によってコントロールされる」とあり、主審の決定として「主審およびその他すべての審判員の決定は、常にリスペクトされなければならない」とある。VARもあくまで主審へのリスペクトを前提とした運用手順になっていることがお分かりいただけるだろう。

 

 先のYBCルヴァンカップ決勝、川崎フロンターレ―北海道コンサドーレ札幌戦で試験導入されたが、運用面で大きな問題はなかったと感じている。

 

 VARが介入したのは札幌のチャナティップがペナルティーエリアに入っていくのを食い止めようとした川崎F谷口彰吾のプレーであった。オン・フィールド・レビューを踏まえ、イエローカードからレッドに変更された。「Jリーグジャッジリプレイ」では主審とVARの交信のやりとりが紹介されている。

 

VAR「DOGSO(ドグソ=決定的な得点機会の阻止)の可能性あり。オン・フィールド・レビューを勧めます」

主審「OKです」

 

 主審尊重論に立つため、あくまで「勧める」というスタンスは崩さない。この後、オン・フィールド・レビューによって退場に変更されたのだが、場内にどよめきが起こったのも事実だ。VARが介入すべき「明確な主審の判断ミス」だったのかどうか。しかしオン・フィールド・レビューによって主審が判定を変えている以上、正しい介入だったと言えるのではないだろうか。

 

 ただ、あればいいなと思うのがVARの「可視化」だ。VAR介入時にどんな確認をしているかだけでも音声をオンにし、リアルタイムで伝わってくると見ているほうも選手も納得がしやすい。

 

 主審は選手たちとの信頼関係に基づいて試合を進めていくのだから、VAR介入時のやりとり公表はアリなのではないか、と思う。映像とそれにおける解釈の可視化で納得させられれば、それはレフェリーにとってもメリットになる。その後の試合のコントロールもやりやすくなるはずだ。

 

 高速化が進むサッカーにおいて、テクノロジーの導入は避けられない。つまりVARは時代からの要請だ。しかしながらVARに頼るのではなく、レフェリーが「うまく使う」ことで「うまく試合をコントロール」するという観点が抜け落ちてはならない。


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