この1ヶ月で日本サッカー界は大きく動きました。まずは残念なニュースからいきましょう。日本代表のイビチャ・オシム監督が16日未明に急性脳梗塞で倒れました。私は、就任当初から高齢であることが気にかかっていました。ニュースを耳にした時は、「とうとう、そういう時期がきてしまったのか」と思いましたね。代表監督という結果を求められる立場でメディアから大きなプレッシャーがかかっていたのでしょう。

 最近になって、オシム監督の目指す方向がようやく見えつつあっただけに残念というしかありません。彼は日本サッカーの本質、抜本的な部分を変えようとしてくれていた。誰よりも、病床のオシム監督自身が残念に思っているはずです。協会関係者も大きなショックを受けていると思いますね。
 
 協会は、オシム監督の後任として元代表監督の岡田武史氏に一本化したようです。岡田氏は高い分析力を持った指導者。現時点で考えることができる最も適任の人物ではないでしょうか。外国人監督を呼ぶという選択肢もありますが、どうしてもW杯など国際大会において、その監督の母国と対戦する際に勝負に徹しきれない部分があります。私は、日本代表の監督は日本人がベストだと以前から思っていました。

 岡田氏の就任が正式に決まったわけではありませんが、日本代表には、来年から始まる南アW杯3次予選に向けて、新体制の下、頑張ってほしいですね。岡田氏は、オシム監督のスタイルをすべて受け継ぐことはないと思いますが、オシムスタイルの長所を可能なかぎり取り入れて、チームをつくってほしい。オシム監督のことは本当に残念ですが、協会もバックアップ体制を整えて、岡田氏を支援してもらいたいですね。

<五輪出場は通過点でしかない>

 U-22代表が五輪出場を決めるという嬉しいニュースもありました。まずは、ソリさん(反町監督)に『おめでとう!』と声を大にして言いたいですね。苦しい時期はあったと思います。第4戦のカタール戦では後半ロスタイムに逆転弾を浴びました。反町監督も当然、相手国の分析やプランの立て直しを迫られたと思います。

 私が一番評価したいのは、第4戦以降、選手たちが自分たちで「今、何をしなければいけないのか」を理解したこと。第5戦のベトナム戦の前、選手たちは自主的に選手だけのミーティングを開いたそうです。そういう意識の変化が、北京五輪出場という結果につながったのでしょう。

 我々の時代もW杯予選の時に話し合った覚えがあります。ジーコジャパンでも、DF宮本(ザルツブルグ)が中心になって選手だけのミーティングを開きました。監督はオーケストラの指揮者のようなもの。全体を取りまとめてくれますが、最終的に戦うのは、ピッチの上に立つ選手たち。腹を割って話し合ったことで、甘さが目立っていたチームは、急に結束力を増しましたね。

 ただ、北京五輪出場はあくまで通過点でしかありません。最終目標はやはり五輪の金メダル。そのことを選手は常に考えていなければいけません。確かに、予選を通じて、DF水本(千葉)を中心とした守備は安定していました。試合を重ねるごとに自分たちの守り方を確立した印象があります。しかし、本番では、世界レベルのスピードを誇る相手が待ち受けている。ちょっとしたミスが命取りになります。本番に向けて、1人1人が他のプレーヤーと可能なかぎり連係を高めていかなければならない。

 また、決定力不足という問題が前線には残っています。個人的には、FWにオンリーワンの武器を持ってほしい。フリーキックならフリーキック、ヘディングならヘディングでいい。今はマルチなプレーヤーが評価されがちですが、そういう選手はDFにとって守りやすい。世界に通用するような突出した武器がひとつあれば、DFは的を絞りにくくなります。北京五輪に向けて、そうした武器を少しでも磨いてほしいですね。

<愛媛にできて、横浜FCにできないわけがない>

 最後に、12月1日にクライマックスを迎えるJリーグの話題です。鹿島が破竹の8連勝でリーグを盛り上げていますね。第33節の直接対決では、アウェー、しかも数的不利な状況で首位の浦和を破って、リーグ制覇の望みをつなぎました。勝ち点1差がありますが、勢いという点では、鹿島が浦和を上回っています。

 鹿島はシーズン途中のMF小笠原の復帰が大きかったですね。小笠原が入ったことで、MF野沢へのマークが分散した。シーズン前半は不調のMFダニーロが起用されていたので、相手は野沢だけを潰せばよかった。今は、小笠原と野沢の2人が中盤でタメをつくれるので、相手もプレスをかけにくい。ディフェンスラインも助かっていることでしょう。

 Jリーグ創成期の鹿島では、MFジーコやMFサントスが中盤でしっかりボールをキープしてくれました。私たち守備陣が、攻められて下がったディフェンスラインを押し上げる時間をつくってくれたんです。ボールを安心して預けられる彼らのおかげで、僕らは常に全体をコンパクトに保つことができました。今の鹿島がまさにその状態です。

 好調な鹿島とは対照的に、浦和は天皇杯でJ2の愛媛に完敗するなど悪いサイクルに陥っています。疲労がピークに達していることはもちろんですが、ACL優勝という結果が出たことでどこか緊張の糸が切れてしまったのでしょう。直接対決の鹿島戦に続いて、格下の愛媛にまで敗れたことで、精神的に追い込まれている状況でしょう。

 その浦和と最終戦で対戦するのが最下位の横浜FCです。FW久保やMF山口など選手が次々と解雇されている厳しい状況ですが、何とか意地を見せてほしいですね。解雇されたメンバーのことを考えて、モチベーションが上がらないということもわかりますが、それで精彩を欠くようでは、プロ失格ですよ。応援してくれるファンの前で、情けない戦いをしてはいけない。

 逆に、残された選手は今がレギュラーを獲得するチャンスぐらいに思ってほしい。解雇された選手についても同じです。「俺は追い出されたけど、こっちでしっかりやっているよ」と自分を放出したクラブを見返すぐらいの気概を持ってほしい。

 愛媛ができたのだから、横浜FCにできないはずがありません。愛媛FCの選手は浦和と比べて個で明らかに劣っていましたが、組織で必死に戦いました。キーマンのFWワシントンとMFポンテをしっかり押さえることができれば、横浜FCにも勝機はあります。リーグの最後を締めくくるにふさわしいゲームを見せてほしいですね。

● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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