大晦日の格闘技シーンを大いに盛り上げた三崎和雄×秋山成勲戦の公式結果が覆った。「1ラウンド8分12秒、三崎のKO勝利」が、「ノーコンテスト」へと。釈然としない。

 まず、三崎の蹴撃は果たして秋山が4点ポジションにある際に見舞われたものなのか? ビデオテープを何度見直しても秋山の左手が、マットについていたとは断定できない。僅かにグローブがマットから浮いているようにも見える。加えて、あの状態を果たして「4点ポジション」と規定すべきなのだろうか、と考えてしまう。
 1999年9月、横浜アリーナ『PRIDE.7』でのイゴール・ボブチャンチン×マーク・ケアー戦の時とは明らかに状況が異なる。ボブチャンチンは、マットにうつ伏せているケアーを蹴り上げたのだから明らかな反則だが、三崎の場合は、そうではない。試合の流れの中で、それも眼光を真っ直ぐに向けて反撃に転じてこようとする秋山に対してカウンターでキックを放ったのだ。それを「4点ポジション」に当てはめるのはどうかと思う。

『やれんのか! 大晦日! 2007実行委員会』の見解もハッキリしない。プレスリリースによると実行委員会は「反則とも反則でないとも取れます」と見ている。よってノーコンテストとする……とのことだが、そんな曖昧なことで一度、レフェリーが下した判定を「誤審だ」と処理してしまって良いのだろうか? 三崎の蹴撃を反則と判定するのならば、「三崎の反則負け」とすればいい。しかし、反則と断定できないのならば、判定は覆すべきではない。なぜ、灰色決着に持ち込もうとするのだろうか? 理解に苦しむ。

 もう一つ、大晦日のリング上での裁定が「誤審」だったのならレフェリーにも処分を下すべきだろう。ところが実行委員会は次のように見解を示している。
「当試合を裁いた野口大輔レフェリーの『流れの中でのフィニッシュ』という判断自体は、その時点での判断としては何ら瑕疵のないものとし、実行委員会として処分を問うものではありません」
 反則を犯したかどうかハッキリしない三崎は勝利を取り上げられ、その大事な部分を見逃したレフェリーには何の咎めもなし。そんな理不尽なことがまかり通るのだろうか。勿論、私は、三崎の蹴撃が反則だったとは見ていないし、当日の野口氏のレフェリングにも、まったく落ち度はなく妥当なものだったと思っているのだが……。

 また「三崎×秋山戦に関しては2試合行う約束だった」と谷川貞治FEG代表が話していたことも気にかかる。2試合契約したことが本当ならば、そのことを先にファンに伝えるべきだろう。緊張感を持って大晦日の闘いを見守った後で、「実はもう1回やる予定でした」では観る側が白けてしまう。

 裁定が覆った1月22日時点で、既に三崎の3.5代々木『戦極』参戦は決定していた。三崎もGRABAKAも『HERO’S』や『旧PRIDE』の所属団体ではない。フリーの立場にあり、より多くの闘いの舞台を求めるのは当然のことだ。もしも今回の件が、ライバル団体への参戦を決意した三崎への報復だとしたら、それこそ競技に対する冒涜である。後味が悪い。

----------------------------------------
近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜(文春文庫PLUS)』ほか。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)
◎バックナンバーはこちらから