サッカーやラグビーの試合に例えて言えば、東京大会は前半が終了し、ハーフタイムを経て、ここからが後半だ。「パラリンピックの成功なくして東京2020の成功なし」とは橋本聖子組織委会長。異議なし、である。

 

 成功の条件は第一にコロナ対策だ。五輪における大会関係者の陽性者累計は540人。選手村のクラスターはギリシャ選手団の一例のみ。組織委幹部は「ぎりぎりで踏みとどまった」と語っていた。

 

 だが、パラリンピック開幕時の感染状況は五輪開幕時の比ではない。東京都では1日あたりの新規感染者が五輪開幕時の1359人から4220人に急増している。それでなくても基礎疾患を抱えるパラアスリートは、運悪く感染した場合、重症化しやすいと言われている。また介助者や補助器具と接する機会が多いため、運営側には感染リスクを最小化するキメの細かい対策が求められる。

 

 第二に熱中症対策だ。組織委によると、五輪期間中、熱中症の疑いのある選手・関係者は150人を数えた。直前になって試合日程が変更になる競技も相次いだ。選手のコンディションを考えれば、もっと早めに手を打てたのではないか。この反省を後半戦に生かして欲しい。

 

 結団式の挨拶で、選手団団長の河合純一は、こう言った。「パラリンピアンのパフォーマンスとメッセージは、多様性を認め合える活力ある共生社会を実現する原動力になると確信している」。そも共生社会とは何か。これほど漠とした言葉もない。「共生社会には二つのタイプがある」。いつだったか、河合は私にそう言った。「ミックスジュース型とフルーツポンチ型。前者は単に元の素材をすり潰しただけ。私たちが目指しているのは、それぞれの形や個性が、生きたまま混じり合う後者なのです」

 

 パラアスリートといっても障がいの種類や等級はさまざまだ。とても「障がい者」とひとくくりにすることはできない。「世界中くまなく調べたわけではありませんが、基本的に欧州の国には障がい者手帳というものがありません」。そう教えてくれたのは64年東京大会でイタリアパラ選手団の通訳を務め、後にバリアフリー建築の第一人者となった一級建築士の吉田紗栄子だ。「誰もが皆、一市民。たまたま障がい者だったり高齢者だったりするだけのことでしょう。特別な人はいませんから…」

 

 私見を述べれば「共生社会」をつくる上で、国民の「共鳴」と「共感」は欠かせない。「人間の可能性の祭典」であるパラリンピックこそは、その最大にして至高の舞台装置であると信じている。

 

<この原稿は21年8月25日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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