ポイントは事前の情報収集と予選リーグの戦い方 〜北京五輪〜

 先のアジア予選の激闘を制し、五輪出場を決めた野球日本代表が目指すものはただひとつ。金メダルである。「金メダルしかいらない」と公言する星野仙一監督が、悲願を成就させるために必要なものは何か。それは前回アテネ五輪の敗北の中にある。
 前回大会、日本はオールプロで臨みながら、準決勝のオーストラリア戦で敗れて銅メダルに終わった。日本は予選リーグから全勝を狙って、最大のライバルをキューバに設定していた。大会前に日本にキューバ代表を招いて壮行試合を行うなど、対策は万全。予選リーグではエース松坂大輔を先発に立て、6−3で勝利した。ここまでは計算どおりの展開だった。

 ところが――格下とみていたオーストラリアに4−9と敗れ、足元をすくわれた。予選リーグこそ1位通過したものの、続く準決勝でもオーストラリアに0−1と完封負けを喫して夢を絶たれた。先発投手のクリス・オクスプリング(元阪神)の持ち球が事前のデータと異なり、攻略できなかったことが敗戦の一因だった。

 情報戦は一発勝負となる国際大会で大きなウエイトを占める。今回のアジア予選、日本はアテネでの失敗を教訓に徹底的に韓国、台湾の戦力を分析していた。一方で日本側の情報を徹底的に隠した。それは初戦のフィリピン戦、翌日の韓国戦に先発が決まっていた成瀬善久(千葉ロッテ)をわざわざブルペン入りさせ、煙幕を張るほどの念の入れようだった。結果、韓国は日本の先発をダルビッシュ有(北海道日本ハム)と読み誤ったのである。

 本番でも予選同様、情報戦でまず有利に立つことが求められる。キューバ、米国などの強敵はもちろんだが、3月に台湾で行われる最終予選から勝ちあがってくるチームも侮れない。こちらは星野監督自ら偵察に行く予定になっており、ぬかりはなさそうだ。

 今回はアテネ五輪では予選敗退した米国が登場する。最終予選組にも韓国、台湾、メキシコ、カナダなどの強豪が残っており、前回以上に金メダルへのハードルは高いとも言える。しかし、北京で日本が最終的に狙うのは全勝することではない。決勝トーナメントを勝ち抜くことである。

 極端な話、8カ国の総当たりで行われる予選リーグは決勝トーナメント進出可能な4位以内に入ればよい。前回、キューバに必勝を期して松坂を起用したような采配は最終決戦までとっておくべきだ。たとえ敗れたとしても、相手の状態を見極めることのほうが重要である。手の打ちをすべて明かす必要はない。

 順当にいけば、決勝トーナメントで日本の前に立ちふさがるのはキューバ、米国、韓国か。前回大会金メダルのキューバはオスマニー・ウルティア、フレデリク・セペダらアテネの金とWBC(ワールド・べースボール・クラシック)準優勝に貢献した強打者がいまだ健在。打線の破壊力だけなら世界一だ。

 米国も昨年11月のIBAFワールドカップではマイナーリーグのオールスターメンバーを送り込み、キューバを下して14大会ぶりの優勝を果たした。シドニー五輪ではマイナーリーガー中心のチームで金メダルを獲得している。現役メジャーリーガーの出場はなくとも、日本と互角の戦いをしてくるだろう。
 韓国との実力差が紙一重であることは予選でも明らか。予選を欠場した主砲のイ・スンヨプ(巨人)やクローザーのオ・スンファンが加われば、戦力はさらに厚みを増す。

 星野監督は五輪本番では初采配となるが、前回は現地で日本代表の試合を全部見ている。また昨夏のプレ五輪で北京の試合環境も充分理解している。大野豊投手コーチがアテネに続いてベンチに入っているのも心強い。代表メンバーは今後の状況によって変動が出てくるだろうが、誰が選出されても“備え”さえあれば、金メダルへの“憂い”はないはずだ。

 黒田、“松坂越え”なるか? ベテランの再チャレンジにも注目 〜メジャーリーグ〜

 黒田博樹(ドジャース)、福留孝介(カブス)、小林雅英(インディアンス)、薮田安彦(ロイヤルズ)、福盛和男(レンジャーズ)――。今季のメジャーリーグはさらに5名の日本人選手が海を渡ることが決定し、昨年以上に目が離せない。

 中でも黒田と福留はそれぞれ3年総額39億円、4年総額55億円と破格の契約を結んだ。これは昨年、鳴り物入りで入団した松坂大輔(レッドソックス)をも上回る額だ。ポスティングでの移籍金も加え、「1億ドルの男」と騒がれた松坂はメジャーの環境に苦しみながらも15勝(12敗)をあげ、チームの世界一に貢献した。当然、黒田も松坂と同等、いや、それ以上の数字を期待されるに違いない。

 黒田にとって大きいのはクローザーに斎藤隆がいることだ。いまやナ・リーグを代表する守護神にリードしてバトンをつなげば、勝ち星が消えることはまずない。野球のことはもちろん、日常生活の面でも良きアドバイスを得られるだろう。ヒジの手術を受けた影響か、昨季は12勝8敗、防御率3.56とイマイチの成績だったが、本領を発揮すれば、“松坂越え”の可能性は大だ。

 福留が所属するカブスは100年ぶりのワールドチャンピオンを目指す。元広島で昨季は33本塁打のアルフォンソ・ソリアーノ、打率.317のデレク・リーなど、チームに右の好打者が揃っており、左の強打者の加入はシカゴ市民の期待を高めている。現地では「イチロー(マリナーズ)と松井秀喜(ヤンキース)を足した選手」とも紹介されており、2人の1年目の成績(イチロー:打率.350、8本塁打、69打点、松井:打率.287、16本塁打、106打点)にどこまで迫り、上回ることができるか注目される。

 もちろん2年目以降の選手にもみどころは多い。近代MLB新記録となる8年連続200本安打と日米通算3000本安打(あと130本)の達成がかかるイチロー(マリナーズ)、2年目のジンクスに立ち向かい、2年連続世界一を狙う松坂と岡島秀樹のレッドソックスコンビ、ポスティング移籍をしながら、ルーキーイヤーはわずか2勝に終わった井川慶(ヤンキース)、新天地でプレーする松井稼頭央(アストロズ)、井口資仁(パドレス)、田口壮(フィリーズ)などなど……。また、昨年末に実名が公表されたメジャーリーガーの薬物問題は、シーズン中もグラウンド外を騒がせることになるだろう。

 最後に今年40歳を迎える桑田真澄、野茂英雄の両投手にも触れておきたい。桑田は今季所属していたパイレーツ、野茂はロイヤルズと、それぞれマイナー契約を結び、メジャー復帰を目指す。桑田は昨季もマイナーから昇格したが、白星をあげることはできなかった。野茂も日米通算200勝をあげた05年を最後にメジャーでの勝ちはない。再び夢のマウンドに立ち、忘れかけていた勝利の味をかみしめることはできるのか。不惑の“再チャレンジ”をしかと見届けたい。

 台風の目になりそうな楽天の存在 〜日本プロ野球〜

 昨季は落合博満監督が3度目の正直で中日を53年ぶりに日本一へ導き、幕を閉じたプロ野球。果たして今季はどのチームが日本一の栄冠を手にするのか。セ・パ両リーグの注目ポイントを見てみたい。

 昨季の覇者・中日は近年、打の柱を担っていた福留孝介がFA権を行使してシカゴ・カブスへの移籍を決めた。しかし、昨季も夏に右ヒジのケガで戦線離脱しているだけに、それほど戦力ダウンしたイメージはない。堂上剛裕、平田良介といった若手の成長も著しく、今季も優勝争いの一角を担うことは間違いないだろう。

 天国と地獄、どちらに転ぶかわからないのがセス・グライシンガー、マーク・クルーン、アレックス・ラミレスと3人の主力外国人選手を補強し、リーグ連覇、日本一奪回を狙う巨人だ。
 この3人の補強は理に叶っていないわけではない。昨季は上原浩治が抑えにまわり、右の先発投手が不足していた巨人だが、クルーンの補強によって、上原が先発復帰の可能性はほぼ確実だろう。そうなれば、左の高橋尚成、内海哲也、右の上原、グライシンガーとバランスよくローテーションを組めそうだ。

 さらに、戦力外通告を受けたデーモン・ホリンズで空いた外野にラミレスを置き、小笠原道大、イ・スンヨプ、さらには高橋由伸、阿部慎之助とともに打線の中心となることが期待されている。
 3人とも誰もが認める実力者だけに、チームにはまれば“常勝軍団”復活の狼煙を上げることができそうだ。だが、既存の選手の中には今回の補強に不満を募らせている者もいる。こうしたチーム力としてのもろさを原辰徳監督がどうまとめ上げるかがカギとなりそうだ。

 パ・リーグで最もおもしろい存在となりそうなのが昨季、球団設立3年目にして最下位を脱出し、4位となった東北楽天だ。本来ならエースを務めるべき岩隈久志、一場靖弘が昨季もピリッとしなかったが、ルーキーの田中将大、永井怜、さらには6年目の朝井秀樹の頑張りが目立った。

 打線は11年ぶりに本塁打王に輝いた大ベテラン・山崎武司の復活、2年目の草野大輔の躍進もあり、チーム得点数(575)は1位の千葉ロッテに次いで堂々の2位となった。失点がリーグでワースト1位だったにもかかわらず、4位となった理由がここにある。

 今季は北京五輪予選にアマチュアからただ一人出場した長谷部康平(愛知工業大)が投手陣に加わる。本来の力を発揮すれば、即一軍入りは間違いない。岩隈、一場の両エース候補が復調し、田中、永井が“2年目のジンクス”に打ち勝って昨季以上の成績を収めることができれば、楽天のAクラス入りも見えてきそうだ。
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