昨シーズン限りでユニホームを脱いだ東京ヤクルト・古田敦也前監督。グラウンドでは名捕手として一時代を築き、選手会長としても史上初のストライキの決断を下すなど、多くの野球ファンから愛される存在だった。そんな古田氏と当HP編集長・二宮清純が『月刊現代』誌上で対談を行った。これまでの野球人生を振り返るロングインタビューの一部を雑誌発売に先駆けて紹介する。
(写真:「メジャーでプレーしたい気持ちもあった」と語った古田前監督)
二宮: 18年間の現役生活、お疲れ様でした。入団当初は18年もプレーできるなんて思っていなかったでしょう?
古田: なんとなく10年できたらいいなと思っていました。首位打者を獲って、日本一も経験することができましたし、自分にとっては予期せぬ野球人生でしたね。プレーヤーとしては幸せだと思います。

二宮: ちょうど今はキャンプ前で、また新しいシーズンに向けて準備を始めていた時期だと思いますが、もうユニホームを着なくていいというのは、どんな気持ちですか?
古田: 今は例年のオフと変わりませんが、2月のキャンプが近づいてくると寂しく感じると思いますね。これまでなら2月のキャンプ中なんて1カ月、東京にいなかったわけですから。
 ただ、42歳まで頑張りましたし、一区切りはつけなきゃいけないかなと。肩の腱板やひざの靭帯が切れるまでやりましたから。

二宮: 肩の調子が悪いと報道されていましたが、腱板が切れたままプレーされていたと?
古田: 理由はわからないのですが肩がものすごく痛くて、病院で診てもらったら切れていました。判明したのは(昨年の)5、6月です。お医者さんからは「手術してください」と言われました。その時に「先が見えたかな」と感じました。
 腱板が切れていますから思い切ってバッと投げると肩がグラッとくる。日常生活で支障はなくキャッチボールも軽くなら全然痛くない。ただ、力を入れると痛みが走りました。

二宮: 現役引退の決断はいつごろですか。
古田: シーズンの早い段階です。4月の終わりには球団に伝えました。「現役は今年で辞めようと思います」と。そのときは「監督は続けてやってほしい」という話でした。

二宮: それが涙の退団発表となったわけですが、監督辞任の理由は?
古田: 契約の最終年だったので、開幕前からクライマックスシリーズにも出られないようなら辞めなきゃいけないと思っていました。チームの成績が悪ければ、その責任を監督がとるのは当然。選手たちには「結果を気にせずにやってくれ。その代わり、こちらが指示したことは一生懸命やってくれ。それで負けたら監督の責任なんだから」と常々、話をしていました。それは野村さん(現楽天監督)が監督時代、僕たちに言ってきたことでもあります。

二宮: やはり涙が出たというのは、いろんな思いが脳裡を駆け巡ったのでしょうか?
古田: ファンから期待されるのがプロだし、その期待に応えるのがプロの仕事です。僕なりに限られた戦力の中で一生懸命考えて、これがベストだと信じて戦ってきましたが、結果的に期待を裏切ってしまった。たくさんの人に応援していただいたのに……。悔しい思いでした。

二宮: 昨年はサード岩村明憲(レイズ)が抜け、後釜に古田さんはオリックスを自由契約になった中村紀洋(中日)の獲得を希望されましたよね。誰かいなくなったら、代わりの選手を補強するのは当たり前だと思うのですが……。
古田: 僕もそう思うんですけどね。何度も食らいつきましたが、最後は「しつこい」という感じでした(笑)。監督は選手の獲得を決定する立場にはないと改めて思い知り、単純に力不足を感じました。残念でした。
 検討にあたって球団側にはプレゼンもしましたよ。中村が入ったら、これくらいの能力だからこうなると。プラス材料はもちろん、懸念されている点もちゃんと出しました。理論立てて説明したのがダメだったかもしれないですけど……(笑)。

二宮: 結局、中村は中日に入団して日本一に貢献。ヤクルト戦でもよく打ちました。
古田: よく打たれましたね(苦笑)。そこは現場を預かる僕の責任ですね。ただ、(ヤクルトに入って)神宮だったら本塁打30本は打つと思いましたよ。岩村が抜けて投手陣がそろわなくても、強力打線で戦えるというイメージは描いていました。

二宮: もう一度、機会があったら監督として復帰したいですか?
古田: ええ、ユニホームは着たいですね。ヤクルトとは限らないですけど。最下位になってしまって説得力がないですが(笑)、個人的には野球は得意だという自負があります。技術だけじゃなく、いろいろな面をみても他の人には負けていないと思っています。それを指導したり、伝えたりすることも自分のひとつの責任と感じていますね。

二宮: 既にお仕事の話が多く来ているでしょうが、今後やってみたいことは?
古田: いろんなところに足を運びたいなと思っています。それこそアイランドリーグとかBCリーグとか観にいきたいです。アイランドリーグもBCリーグも今季から2チーム増やして、地域に根付いて楽しみを提供している。これが本来の野球というか、スポーツエンターテインメントの形ですよね。すばらしいことだと思っています。
 単に選手の良し悪しではなく、どのくらいお客さんが集まって、どんな人たちが地域と一緒になって運営されているのかといったビジネスモデルに興味があります。その上で野球界に携わってきたひとりの人間としてサポートできることがあればチャレンジしてみたいですね。

<このインタビューの詳しい内容は08年2月1日発売『月刊現代』3月号に掲載予定です。どうぞお楽しみに>
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