5日、オリックスと福岡ソフトバンクの間での二重契約が問題となっていたジェレミー・パウエル投手が都内で会見を開き、「私は二重契約をしたつもりもないし、これは二重契約ではないと思っている」と自らの正当性を主張した。
(写真:ソフトバンクとの契約が正式だと主張するパウエル投手)
 会見の冒頭、パウエルは「これは僕の名誉にかかわる問題だ」と述べた。それもそのはずだ。当初はオリックスの清原和博が「ナメとる。登録名は“お金”にしたらいい」とさえ発言したように、パウエルがオリックスより多額の年俸を提示したソフトバンクに鞍替えしたというふうに見られていたからだ。
 しかし、パウエルははっきりと「そういうことではない」と述べ、オリックスとの交渉について説明した。

 パウエルによると、オリックスとは1月上旬に契約交渉を行い、締結寸前まで話は進んでいた。パウエル自身も今シーズンはオリックスでプレーすることを心待ちにしていたという。
 パウエルの自宅にオリックスから統一契約書がFAXで送られてきたのはこの頃だ。「ビザ取得のため」という説明を受けたパウエルはすぐにサインをし、送り返した。それがオリックスが「契約は結ばれたはず」と主張している統一契約書のサインの真相だという。

 その後、フィジカルチェックを済ませたパウエルは特に問題もなく、ビザの取得に向けて動くはずだった。ところが、オリックスが契約内容の変更を求めてきたため、パウエルは球団に不信感を抱き、代理人を通じてオリックスと契約しないことを伝えた。パウエルとすれば、この時点でオリックスとの交渉は完全に決裂したという認識だった。

 ソフトバンクから交渉をもちかけられたのは、その数日後のことだった。交渉に応じたパウエルは球団側と直接会い、その場で統一契約書など必要な書類にサインをした。ソフトバンクがパウエルとの契約合意を発表したのは、その後のことである。パウエルは「私と契約できる状況にあったオリックスが踏むべき手順を踏まず、交渉は不誠実だった」ことが今回の問題の引き金と主張した。

「今日から私はホークスの一員だと思っているし、球団側も快く迎え入れてくれている」とパウエル。こうした彼の発言に対し、オリックス側はどう反論するのか。だが、今やパウエルとソフトバンクは相思相愛の仲であり、もはやオリックスが入る余地はないと見ざるを得ない。

 とはいえ、仮にオリックスがこのまま身を引いたとしても、それだけではこの問題はおさまらないだろう。4日にはパ・リーグがパウエルに対し、約3カ月の出場停止勧告を出し、支配下登録は早くても交流戦後の6月23日と言われている。果たしてソフトバンクがその条件をこのまま受け入れるのか……。決着の終止符を打つには、もう少し時間がかかりそうだ。

 一問一答は次の通り。

―― (オリックスから送られたFAXに)サインをした時点ではオリックスでプレーするという認識だったのか。

パウエル: その時点では間違いなくオリックスでプレーするつもりでいた。

―― オリックスからFAXで送られた書類がビザ申請用だということは誰に確認したのか?

パウエル: オリックス球団の鈴木陽吾(調査渉外グループ課長代理)氏から「自宅に書類をFAXした。ビザ取得を早めるためのものだからサインをして送り返してほしい」という電話のメッセージがあった。

―― 1月11日にオリックスが契約合意を発表したが、それ以降もオリックスとの契約交渉は続いていたのか。

パウエル: 1月11日以降、契約内容を話し合った。その中でオリックスは自分たちにとって有利になるような内容に変更しようとしてきた。

―― オリックスによると最初の段階でフィジカルチェック後でも契約内容の変更ができるというような条項があったようだが。

パウエル: 契約の合意前にフィジカルチェックをするというのが通常の流れだろう。だが、私はフィジカルチェック後に契約内容の変更があるという認識はなかった。フィジカルチェックをする前に綿密な話し合いが行なわれていたし、(フィジカルチェックの)結果も全く問題はなかった。私としては早く契約をしたかったが、オリックスはそういうふうな意思を示してはくれなかった。何度も何度も内容を変えようとしてきたので、倫理的な部分で疑問を持ち始め、最終的に私の中で(交渉決裂の)結論を出した。

―― オリックスはどのように契約内容を変更しようとしたのか?

パウエル: 一つ具体的に言うと、2009年に関するオプションの部分。フィジカルチェックが終わった時点で既に内容は決まっていたが、その後にオプションのバイアウト(契約買取)に関する項目でいろいろと内容を変更しようという試みがなされた。その時、「これで終わらない。またこれからもいろいろと契約内容の変更を求めてくるだろう」と思い、交渉を続けるのは限界だと感じた。

―― 1月11日の契約合意や背番号の発表はオリックスが勝手にしたことと認識しているのか?

パウエル: もちろん、(発表は)知っていた。背番号は自分が選んだものだし、住居を用意してくれていることも知っていた。ただ、それは当然のことながら契約の話し合いの中で行なわれていたこと。締結するにあたって内容を詰めている段階だった。
 だからこそ、なぜオリックスが最終的に契約締結までもっていってくれなかったのか、オリックスに有利になるように話を進めようとしたのか、理解に苦しむ。もしかしたら、彼らは私にはオリックス以外に選択の余地はないという認識があったのかもしれない。

―― オリックス側に契約しない旨は伝えたのか?

パウエル: 1月20日前後くらいに代理人を通じて球団側に「これ以上交渉を続けたくない」という自分の意思を伝えた。

―― オリックスの清原和博が「パウエルはお金で動いたんじゃないのか。登録名は“お金”にしろ」というような辛らつなことも言っている。

パウエル: 人それぞれ意見があると思うし、その時清原選手が感じた感情をあらわしたのだろう。周りの人が何を言おうと、それは私にはコントロールできない。コントロールできるのは自分の行動だけだ。清原選手の発言に対しては特に何も感じていない。

―― パ・リーグからは支配下登録は6月23日以降という勧告が出ているが。

パウエル: 非常に残念だ。野球選手の私にとっては厳しい罰だし、私のキャリア、人生において大きな打撃を受けるものだ。ただ、この勧告に対しては私がコントロールできるものではない。今では私はホークスの一員だと思っているし、ホークスも私を迎え入れてくれている。だから私は自分のやるべきことに集中しながら、前向きに練習を続けるだけだ。

―― このまま6月下旬までプレーできない場合、オリックスに対して法的手段などはとるのか?

パウエル: そのつもりはない。私自身、真実が何かというのはよくわかっている。とにかく前に進むことしか考えていない。フィールドに戻ったときにホークスの日本一にどんなかたちであれ貢献できるようにコンディションを整える、それだけだ。
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