「3年間で一番忘れられない試合です」
 高校最後の春高での敗戦は最も印象深く長山の心に刻み込まれている。
「勝てる試合だっただけに、悔しかったですよ。ここ1本という時に、取るか取られるかで勝負が決まる。そのことを痛感させられた試合でした」
 その時の悔しさは今も消えてはいない。
「春高初勝利」という歴史的な快挙を成し遂げた前チームから長山、新主将となった岡村昌、190センチ長身セッターの田内卓の3人が残った。新チームに課されたのは高さをいかしたブロックではなく、レシーブ強化だった。

 春高県予選で高知高は1セットも奪われることなく勝ち上がった。長山自身もバックアタックが面白いように決まり、攻撃に関しては絶好調だった。だが、大崎基喜監督もチームも課題のレシーブに関しては納得してはいなかった。
「これでは全国で上位進出は狙えない」
 裏を返せば、自分たちは全国でも勝てるチームだという自信がそこにはあった。

「チームとしての完成度は昨年以上」との大きな期待を背負い、春高に臨んだ高知高は初戦の関商工高校(岐阜)をストレートで破り、前年に続いて2回戦進出を果たした。しかし、内容はというと、1、2セットともにミスから相手に連続得点を許す場面が見られ、不甲斐なさが残る試合となった。

 2回戦の相手は足利工業大学付属高校だった。同校は身長わずか183センチながら最高到達点340センチ以上を誇るエース・大木貴之を擁していた。
 第1セット、高知高は気負いからか終始、相手に圧倒され14−25で落とした。うまく気持ちを切り替えて臨んだ第2セット、高知高は得意のブロックでポイントを重ねて相手の攻撃を封じ、18−25で奪い返す。

 迎えた第3セットは中盤まで一進一退の攻防が続いた。実は、この日の長山は予選で当たっていたバックアタックが決まらず苦戦していた。加えて司令塔の田内は大会前から痛めていた腰が完治しておらず、本来のトスワークができていなかったため、高知高の攻撃は単調になりがちだった。

 とはいえ、足利工大付高も全国屈指の高さを誇る高知高のブロックに苦戦していた。終盤にはエース大木がフェイントを多用してきたことが、その何よりの証だった。
 ところが、長山たちはそのフェイントにいいようにやられ、またも2回戦の壁を破ることができなかった。

「大木のフェイントは積極的に狙ったものではなく、最後の手段として逃げ腰で放ったものだったんです。でも、それが効果的に決まったことで、相手が勢いに乗ってしまった。
 どの試合でも取らなくてはいけない“この1本”というのがあるんです。強打は決められても仕方ありませんが、相手が逃げの姿勢で打ってきたボールを落としていては勝負に勝つことはできません」
 
 自分たちの力を出し切れなかったことへの無念さに、選手たちは皆、茫然とした。中には目を赤くはらしている者もいた。長山はチームや家族の前では決して涙を見せることはなかった。だが、裏では一人、悔しさをこらえきれず、ひとしきり涙を流したという。

 長山を傍らで見ていた父親は、当時のことをこう振り返った。
「拓未は負けたからといって、人にあたったりするようなことはありません。でも、その時は本当に悔しかったんでしょう。しばらく、口をききませんでした。
 春高で決まらなかったバックアタックを早く取り戻そうと、家では必死にビデオを観て研究していましたよ。私も素人なりに『踏み込みの位置は、この辺がいいんじゃないか?』とアドバイスしたこともありました。まぁ、役に立ったかどうかはわかりませんがね(笑)」

 残されたチャンスはインターハイのみ。長山たちは最後の夏に全てをかけた。
 県春季大会、県総体ともに1セットも奪われず優勝を果たした高知高は、四国総体に臨んだ。1回戦の脇町高校(徳島)にストレート勝ちを収めると、準々決勝では2年前、1セットも取ることができなかった東温高校(愛媛)をフルセットの末に破った。準決勝の相手は前年と同じ高松工芸高校(香川)だった。前年は第1セットを接戦の末に奪ったものの、第2、3セットは主導権を握られ、結局セットカウント1−2で敗れた相手だ。

 しかし、この日のチームには勢いがあった。誰もが皆、勝てると信じていた。第1セットこそ16−25と圧倒されたものの、第2セットは25−23で奪い返し、フルセットにまで持ち込んだ。第3セットは両者一歩も譲らず、終盤まで大接戦となる。だが、勝利の女神が微笑んだのは長山たちの方ではなかった。最後の最後で突き放された高知高は20−25で落とし、勝利を手にすることができなかったのである。

 チームは負けはしたが、長山自身は調子を取り戻していた。春高では不調だったバックアタックの決定率が上がり、大事な場面で頼れるエースとして成長していたのだ。

 8月、最後の大舞台、インターハイが開幕した。初戦の駿台学園高校(東京)戦をフルセットの末に破った高知高は3年ぶりの予選グループ突破を果たした。3年間で初の決勝トーナメントに進み、「今度こそは」という気持ちで臨んだ2回戦の相手は雄物川高校(秋田)だった。17−25で第1セットを奪われた高知高は、焦りからか第2セットの立ち上がり、いきなりタッチネットを3度取られ、リードを許してしまう。その後反撃をしかけるも、結局一度も追いつけないまま、相手のマッチポイントを迎えた。

 高知高はなんとか22点目をあげ、サイドアウトを取った。サーバーは長山だった。なんとしても決めたかった。いや、決めなければならなかった。だが、勝ちたい気持ちがあまりにも強すぎたのか、長山が放ったジャンプサーブはコートのラインを割り、アウトとなった。長山たちの3年間の戦いに終止符が打たれた瞬間だった。

(最終回につづく)

長山拓未(ながやま・たくみ) プロフィール>
1988年5月17日生まれ。高知県出身。中央大学法学部2年。格闘技一家に生まれるも、2歳年上の姉の影響で小学生からバレーを始める。高知中、高知高では入学直後からレギュラー入りを果たす。高校3年間でインターハイ3度、春高3度出場し、2年時には全国初勝利を挙げる。現在は中央大男子バレーボール部に所属し、レギュラーとして活躍している。得意のプレーはクイック。ポジションはセンターだが、中学、高校時代にはサイドアタッカーの経験もあることから、バックアタックも打つ。196センチ、85キロ。最高到達点335センチ。






(斎藤寿子)
◎バックナンバーはこちらから