各競技でパリオリンピック日本代表が続々と決まっている。レスリングは既にフリースタイルとグレコローマン合わせて男女10階級の代表が内定。残り男子8階級の選手が4月のアジア予選(キルギス)、5月の世界最終予選(トルコ)での切符獲りを目指している。今回紹介するのは、男子グレコローマンスタイル67kg級の曽我部京太郎(日本体育大学4年)である。

 

「パリオリンピックで金メダルを獲る」

 曽我部が今治西高校時代から口にしてきたことだ。同校で全国制覇を経験していたものの、当時シニアの国際大会優勝もまだなかった。若くからオリンピックを嘱望されていたエリートでもない。勝負事で負けを前提にすることはないにせよ、一見、強気にも思える“金メダル宣言”。だが曽我部には、2012年のロンドンオリンピックをテレビで観て以来、“自分がこの舞台で1番になりたい”という思いを胸にトレーニングを積んできた自負がある。

 

 一念天に通ず――。そのことわざを体現しようする22歳。4月19日からキルギスで行われるアジア予選で、決勝に進めば、パリオリンピック出場枠を獲得し、自動的に日本代表にも内定する。キルギス、カザフスタン、ウズベキスタンの猛者がレースのライバルと見られているが「アジアで自分はオリンピックに行きを決める」と言い切る。日体大で同学年の清岡幸大郎(男子フリースタイル65kg級)もアジア予選に出場する。

「同じ四国で、ずっと切磋琢磨してきた。“アイツには負けないぞ”“お互いに頑張るぞ”という気持ちでやってきた2人でオリンピックの切符を獲りたいです」

 

「体力面では世界のトップクラス」

 

 現役時代、2004年アテネ、08年北京と2大会連続でオリンピック出場を果たした松本慎吾は、大舞台の切符獲りの難しさを知る。現在は日体大でレスリング部監督を務め、曽我部ら後進を育成している。

「(オリンピック予選は)本当にプレッシャーがかかるんです。実力があったとしてもこの競技に絶対はない。そこで勝ち切ることが大事。最後まで諦めない姿勢で攻めていくことが、勝利に繋がると思っています」

 

 松本によれば「体力的な面では世界でもトップクラスにある」という。曽我部は昨年9月の世界選手権(セルビア)は3回戦で敗れ、5位以内までが得られるパリオリンピック出場枠を得られなかった。恩師は「世界選手権でオリンピック出場権を獲るだけの実力はあったが叶わなかった。それを彼に置かれた試練として、アジアの大陸予選をクリアできれば、また彼の伸び率は上がるはずです」と期待を寄せる。

 

 曽我部の特長は、スタンディングから積極的に前に出るスタイルだ。攻めて攻めて相手の体力を奪う。グラウンドからのローリングでポイントを取っていく力強さもある。「パワー面で一方的にやられたことはないと思います」と本人。スタミナ面に不安はなく、松本も「パワーやスピードを持続する力がある。6分間戦い抜けるだけの体力を持っている。海外の選手は後半失速する傾向がありますが、そこを曽我部は取り切る力があるのは強みです」と評価する。

 

 同郷の松本は、地元に戻った時のレスリング教室などで曽我部を幼少期から知っている。彼の長所について、「一番は純粋で真面目という部分」と評す。曽我部自身、「人一倍」をモットーにコツコツ積み重ねていくことを厭わなかった。曽我部がレスリングを始めたのは小学3年の時、地元の今治少年レスリングクラブで、コツコツ積み上げていく競技人生はスタートした。

 

(第2回につづく)

 

曽我部京太郎(そがべ・きょうたろう)プロフィール>

2001年7月3日、愛媛県今治市生まれ。男子グレコローマンスタイル67kg級。小学3年時、今治少年レスリングクラブで競技を始める。今治西高を経て、20年にレスリングの名門・日本体育大学に進学。高校生時に国体3連覇(1年=55kg級、2年=60kg級、3年=65kg級)を果たすなど頭角を現す。日体大進学後は2年時の全日本学生選手権(67kg級)で優勝すると、3年時に全日本選手権(以下同級)優勝、U23世界選手権で3位に入った4年時にはアジア選手権準優勝、ドイツ・グランプリを制するなど国際大会で結果を残し、世界選手権にも出場した。身長169cm。座右の銘は「人一倍」。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 

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