名木利幸(日本サッカー協会プロフェッショナルレフェリー/高知県安芸市出身)第1回「サッカーは、オフサイドがあってナンボ」

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170206第一回  高知県安芸市で生まれ育ち、同県の観光特使を務める名木利幸は、日本を代表するサッカーの名副審である。名木は国際サッカー連盟(FIFA)公認の国際副審で、2009年から相樂亨副審と共に日本サッカー協会(JFA)とプロ契約を結んでいるプロフェッショナルレフェリーだ。2014年ブラジルW杯開幕戦の副審を務め、J1では副審として最多の300以上の試合を裁いている。

 

<この原稿は2017年2月のものを再掲載しています>

 

 副審の役割は主に2つある。1つはボールがラインを割ったかどうかの判定。もう1つはオフサイドをジャッジする。オフサイドとは、パスが出た瞬間に敵陣に位置し、なおかつ相手の最終ラインより体の一部が出た状態でプレーに関与することだ。平たく言えば、ゴール前での待ち伏せ防止策である。

 

 このオフサイドがサッカーからなくなる可能性が出てきた。1月にFIFA技術部門の責任者であるマルコ・ファンバステンが「オフサイドの廃止」を考えていると明らかにしたのだ。オフサイドが廃止になれば、サッカーはどうなるのか。プロ副審の意見を訊いた――。

 

「(オフサイドがなくなると)食いぶちがなくなるので、困るなァ(笑)」

 名木は冗談めかした後に、こう続けた。

 

「ゴール前に(GK以外の)守備専門の選手を1人置く。攻撃側もゴール前に1人攻撃専門の選手を1人置く。そこを目掛けてボールを蹴り合えばいいのですから、間延びしたサッカーになるでしょうね」

 

 間延びしたサッカーとは、現代のサッカーとは真逆の性質である。現代サッカーはDFラインとFWの間をコンパクトに保ち、選手間の距離を近くする。なぜ、コンパクトにするのか。戦術上の理由は様々だが端的に言えば、ショートパスが通りやすく、ボールを失ってもすぐに相手にプレスを掛けにいける。

 

 オフサイドがなくなると、ゴール前に張り付くプレーヤーが出現して、選手間の距離が広がってしまうのではないかというのが名木の見解だ。こうなると、ロングボールが増えるのも至極当然である。

 

副審の役割に生じる変化とは

 

 オフサイドの判定が主な仕事の副審は基本的に守備側の最終ラインに合わせてポジションを取る。もし、オフサイドの廃止が実現したらどこに副審はポジションを取るのだろう。名木は「基本的に最終ラインに合わせて動くのでしょうが、ルーズでいいんですよね。オフサイドを見なくていいので」と口にする。

 

 変わるのはポジショニングだけではない。おそらく、副審の役割にも変化が生じる。ボールのインアウト、オフサイドを見極めるのが現在の副審の主な仕事だが、「(最終ラインの攻防より)ボールの位置を中心に見るようになるのではないか。主審的なファウルを見極める力がより求められる気がする」と名木は予測する。

 

 時に無邪気に、時に真剣な面持ちで名木はサッカーを語る。その姿はサッカーが大好きなファンのようであった。

 

 副審としてではなく、一個人のサッカーファンとしての意見を語ってくれた。

「サッカーは、オフサイドがあるからこそ、統制が取れている。オフサイドが生命線みたいなところがあると思う。僕はやっぱり、“サッカーはオフサイドがあってナンボ”だと思う……」

 

 こうつぶやいた名木は、どこか切なそうな表情だった。これほど熱く、オフサイドについて語る名木はどういった経緯でプロフェッショナルレフェリーになったのか――。

 

第2回につづく

 

170206名木さんプロフ名木利幸(なぎとしゆき)プロフィール>

1971年11月29日、高知県安芸市生まれ。96年に1級審判資格を取得し、Jリーグで副審を務める。2003年から国際副審として国際サッカー連盟(FIFA)に登録。09年には日本サッカー協会(JFA)プロフェッショナルレフェリー。14年FIFAワールドカップでは開幕戦のブラジル対クロアチアの試合を担当した。16年7月9日のJ1セカンドステージ第2節、浦和レッズ対柏レイソル戦でJ1通算副審担当試合数が300に到達。16年Jリーグアウォーズにて最優秀副審賞を受賞。高知県の観光特使も務める。

 

 

(文・写真/大木雄貴)

 

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