「あれでよかったんですかねぇ。僕はドラマの最終回を見せられているような気分になりましたよ。K-1MAXの最終回を」
 もう20年以上の付き合いになる元キックボクサーが、そう言った。私も、同じことを感じていた。
 昨年の大晦日、さいたまスーパーアリーナで開かれた『Dynamite!!』のメインエベント、魔裟斗は宿敵アンディ・サワーに完勝し、笑顔でリングを去っていった。観衆は魔裟斗に声援を送り続けていたが、私は複雑な気持ちだった。
 2002年にスタートしたK-1MAX。これにより、ミドル級、ウェルター級のキックボクシングは、急激にメジャー化した。その主役は魔裟斗だった。アルバート・クラウス、ブアカーオ・ポー・プラムック、アンディ・サワーら実力派ファイターが世界から集っており、闘いのレベルも高かったが、それだけでは、ここまで人気は出なかっただろう。世界と互角に渡り合う日本人のスターファイター魔裟斗がいたからこそ、70キロクラスのキックボクシングに多くの人が注目した。つまりは、「K-1MAX=魔裟斗」だったのである。
 その魔裟斗が勝ったまま、エースのままで舞台を去ったとなれば、やはり最終回の雰囲気が醸し出されてしまう。

 もし、あの舞台での対戦相手が魔裟斗にしっかりと対策を練られたアンディ・サワーではなく、K-1MAXチャンピオンのジョルジオ・ペトロシアンだったら、どうなっていただろうか?

 昨年10月のK-1 WORLD MAX決勝での直接対決で勝利していることからもわかる通り、ペトロシアンの実力と勢いはサワーよりも上位である。試合は勿論、やってみなければわからないのだが、気鋭のペトロシアンが相手なら魔裟斗が惨敗していた可能性も十分にあった。また、大晦日のメインエベントで魔裟斗がマットに沈み、世代交代を示すシーンが現出されていたなら、観る者の意識は、いまとは違っていただろう。新エースとなったペトロシアンを一体、誰が倒すのか……。1つの大きなテーマが構築され、「終わった」ではなく「つづきが見たい」との期待感が観る者の心に宿ったようにも思う。

 勿論、魔裟斗が勝利してグローブを外したことで、K-1MAXが終わったわけではない。今年最初の大会は、3月27日、さいたまスーパーアリーナ・コミュニティアリーナで開かれる。いきなり、日本代表決定トーナメントで、カードは次のように決まっている。
 龍二(リアルディール)vs城戸康裕(谷山)、小比類巻太信(BRAVI RAGAZZI)vs長島☆自演乙☆雄一郎(魁塾)、中嶋弘貴(バンゲリングベイ・スピリット)vsTATSUJI(アイアンアックス)、日菜太(湘南格闘クラブ)vs山本優弥(青春塾)
 また、スーパーファイトとして、佐藤嘉洋(名古屋JKファクトリー)がペトロシアンに挑む。

 ここは正念場である。魔裟斗が去った後もK-1MAXが輝きを保ち続けられるか否か? 私は、特に佐藤に期待したい。ここでペトロシアンに勝つことができれば、魔裟斗の存在を払拭する新たなストーリーのプロローグが奏でられると思うから。

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近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜(文春文庫PLUS)』ほか。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)
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