「何をいまさら」と言われてしまいそうな気もするが、この夏、高校野球の都大会を取材して気づいたことがある。

「高校球児は、全員が野球場で試合できるんだ……」

高校時代、わたしはサッカー部だった。だが、サッカー場で試合をしたことは一度もない。最初から最後まで、どこかの学校の校庭が試合会場だった。

当時、サッカーはマイナーだった。野球は国民的スポーツだった。だから、野球部が野球場で試合をし、サッカー部が校庭で試合をするのは当然だと思い込んでいた。

だが、あのころとは比較にならないほどサッカーの認知度が高まったいまも、多くの高校生、中学生は学校の校庭で試合をしている。どんな弱小校であっても、スタンドのある球場でプレーすることのできる野球との差は、いまだ歴然である。

野球を妬み、また不公平を嘆いても何も始まらない。だが、何かアクションを起こさない限り、サッカーやラグビーを取り巻く環境は何も変わらない。世界のトップに近づくことはあっても、追い抜くことなど未来永劫ありえない。

日本同様、陸上トラックのついたスタジアムが数多く残るイタリアは、いま、彼らの歴史上もっとも苦しい時代に突入しつつある。世界でもっとも多くのお金を集めているのは、すべての試合が専用競技場で行われているプレミアリーグである。ここ15年で、ドイツは多くのスタジアムを専用競技場へと変身させた。

Jリーグの関係者と話をしても、専用競技場を持つことの重要性を理解していない人はいない。中には「10年以内に持ちますよ」と豪語する関係者もいる。

ただ、そのためにはどうするべきかというアイデアは、残念ながら具体的とは程遠いレベルにある。

前日、Jリーグは44クラブへのライセンス交付を決めた。わたし自身も沖縄で痛感したが、地方のクラブにとって、Jリーグ側が要求してくる条件をクリアするのは簡単なことではない。

だが、そのハードルをさらにあげるようで心苦しいのだが、ライセンス交付という「入り口」の段階で専用競技場を加入の条件としない限り、Jリーグはいつまでも陸上競技場での試合を続けることになる。

専用競技場を持たない限り、Jリーグではプレーできない――猛反発が起きるのは間違いない。しかし、発足当時のJリーグが各自治体に突きつけた要求も当時としては相当にむちゃなものだった。

もちろん、いますぐにできることではない。ただ、たとえば「専用競技場を持つクラブは、特例でJ3への参加可」といったルールを作れば、地方自治体の中には真剣に考えるところが出てくるかもしれない。サッカー界に必要なのは、照明とビジョンのついた中規模の陸上競技場ではない。小さくともトラックのない、専用競技場である。

<この原稿は15年10月1日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


◎バックナンバーはこちらから