今季のJ1リーグは、第2節で全勝チームがなくなるなど、早くも混戦模様だ。

 

 

 そんな中、“台風の目”になりそうな予感を漂わせているのが、今季、J1に初昇格したFC町田ゼルビアだ。

 

 アウェー戦となった第2節の名古屋グランパス戦では、前半21分にパリ五輪世代の藤尾翔太が頭で押し込んだ虎の子の1点を守り切り、J1初勝利をあげた。得意とするロングスローからの得点だった。

 

 町田を率いるのは、高校選手権に3度優勝するなど、青森山田を常勝軍団に育て上げた黒田剛。高校サッカーの指導者がJ1クラブを指揮するのは、1993年にJリーグが誕生して以来、初めてのことだ。

 

 いくら高校サッカー界きっての名将とはいえ、プロの選手が指示に従うのか。就任当初は先行きを不安視する声がほとんどだった。

 

 それを実力で封じたのだから大したものである。公約通り、わずか1シーズンで町田をJ2からJ2に引き上げ、まだ第2節が終了したばかりとはいえ、勝ち点4で3位タイにつけている(※3月17日現在、勝ち点10で首位)。

 

 開幕前、敢えて「5位以内」「勝ち点70」という高い目標を設定したのは、勝負に関しては一切妥協しないという強い意志の表れだろう。

 

 黒田は町田をJ2優勝に導いた昨季も、「優勝」するための条件として「勝ち点90、失点30」と数値目標を明確にした。

 

 さすがは元教師である。目標を達成するには、用意周到な計画が必要である。それは数値に裏付けられた具体的なものでなければ意味がない。さらに言えば、目標とする数値があるから、混乱に陥る前に修正を図ることができるのだ。

 

 また黒田は、たとえプロで長年メシを食っている選手に対しても「言ったことをちゃんとやってくれないのならオレは使わない」と針を刺す。ここにきて、失点を忌み嫌う黒田イズムもすっかり浸透してきた。既にして名将の資格は十二分に備わっている。

 

<この原稿は『週刊大衆』2024年3月25日号に掲載された原稿です>

 


◎バックナンバーはこちらから