1年前までアマチュアだった選手たちが、立場をプロと変えただけで見違えるようなプレーをするようになったのが、Jリーグ初年度だった。大観衆に見守られ、自分たちだけでなく、ファンもが勝敗にこだわるようになったことで、日本のサッカーは激変した。

 

 朱に交われば赤くなる。曲がりやすいヨモギも麻の中で育てば真っすぐに伸びる。今季、J2からあがってきた3チームにも、似たような気配があった。

 

 歴史的な開幕ダッシュを決めた町田も含め、順位の上では苦戦しているように見える東京V、磐田には、ある共通した傾向が見られた。

 

 試合最終盤の失速である。

 

 戦う舞台が変わったことで、選手たちは昨年以上のテンションで試合に臨んでいたことだろう。その代償が、終盤のガス欠だった。J1の多くのチームがきちんとペース配分をしている中、昇格組は80分前後で矢が尽き、刀も折れた状態に陥りがちだった。

 

 だが、試合を重ねていくうち、様子が変わってきた。先週末、東京Vは2点のビハインドを追いつき、敗れたとはいえ、磐田も敵地で鹿島をあと一歩のところまで追い込んだ。試合の最終盤になっても、彼らの手にはまだ武器が残った状態になりつつある。

 

 もちろん、1試合におけるペース配分、スタミナの問題が解消されたとしても、シーズンを通じてとなるとどうか、という疑問は残る。町田も含め、彼らの前途は決して楽観できないし、サッカーは、いい内容の試合を続けていても、結果いかんでは内容まで蝕まれていってしまうスポーツでもある。東京V、磐田としては、できるだけ早い段階で降格エリアから脱出し、余計な重圧がかからない状況に持っていきたいところだろう。

 

 ここまでのところ、昇格組の中では町田がダントツで注目を集めているが、元へなちょこGKとしては、磐田の戦いぶりから目が離せなくなりつつある。

 

 長く日本代表の守護神として君臨してきた川島の獲得が発表された際、正直、わたしは若いGKたちを見守る立場というか、半分コーチのような役割を期待されての獲得なのでは、と思った。

 

 というのも、長く海外でプレーしてきたとはいえ、直近2年間における川島の衆生試合数はリーグ戦、カップ戦を合わせてもたったの2試合にすぎない。獲得する側も、正守護神というよりは、頼りになるバックアップ的な役割を期待していたのではないか。

 

 ところが、開幕戦のピッチに立った川島は、5節までの全試合、スタメンとして磐田のゴールを守っている。

 

 特筆すべきは、その存在感である。要所要所でのビッグセーブはもちろんのこと、チームが一方的に押し込まれ、フィールドプレーヤーがアップアップになった時の表情や、時間の使い方が素晴らしい。若いころもっと激情家だった印象のある選手だが、41歳のいまは、むしろ泰然自若の気配が漂う。おそらくは、川島の表情を目にすることによってパニックになりかけた自分をコントロールできている選手がいるはずである。

 

 82年のイタリアや90年のイングランドなど、W杯の歴史においては40代の大ベテランGKが抜擢された例がある。瞬発力などの衰えを補って余りあるプラス効果が、ベテランGKにはあるということなのだろう。

 

 しかも、ゾフやシルトンに比べれば、川島のプレーは圧倒的に若い。磐田は、本当にいい買い物をした。

 

<この原稿は24年4月4日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>


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