第67回 障がいは、「人」にあるのではなく「社会」にある。
大型連休を間近に控えた4月20日、車いすバスケットボールの交流イベントが東京都内の小学校で行われました。
2020年の東京パラリンピック開催が決まって以来、車いすバスケットボールだけでなく多くのパラスポーツの体験や交流イベントが実施されています。
イベント名は「内閣総理大臣杯争奪第44回日本車椅子バスケットボール選手権大会応援プロジェクト障がい者アスリート交流キャラバン」。5月3~5日に東京体育館で行われる「日本車椅子バスケットボール選手権」を目前に控えた選手たちとのふれあいを通じて、広く競技を知ってもらうことが目的です。
会場となった小学校の体育館には、1年生から6年生まで94名が勢揃い。選手達の登場を「まだかな」と待ちわびていました。
交流キャラバンには、シドニーパラリンピック車いすバスケットボール元日本代表キャプテンの根木慎志さん、車いすバスケットボールチーム「NO EXCUSE」から大嶋義昭選手、湯浅剛選手、村上慶太選手、池田貴啓選手の合計5名が参加しました。
根木さんたちが車いすで体育館に入ってくると「おお、かっこいい!」と声が上がります。
「車いすバスケットボールってなんだろう」とわくわくしている子ども達を前に、まずは選手達がパフォーマンスを披露しました。2対2でのミニゲームでは、自在に車いすを操ってパスを回してシュート! 子ども達は自然に応援の声を上げていました。
その後は6年生による車いすバスケットのミニゲームが行われました。初めてなのに見よう見まねでターンをしたり、ルーズボールの奪い合いでは車いすが激しくぶつかります。でも気にしない。いつもと同じように、思い切り楽しんでいました。
大型連休中に行われる日本選手権大会の会場に、この子どもたちの何人かはきっと訪れることでしょう。こうした草の根のPRを繰り返すことが、国内のパラスポーツの大会の会場を少しずつ埋め、2020年のパラリンピックで各会場が満員となることにつながっていきます。
◆車いすバスケ元日本代表キャプテン・根木慎志さんの挑戦
今回、選手達と一緒に交流キャラバンに参加している根木さんは、毎年100カ所以上の学校で体験会に参加しています。
どこのイベントでも以下のようなやりとりが必ずあります。根木さんが車いすバスケのパフォーマンスを披露。「かっこいい」と子どもたちの目がキラキラしてきます。
そこで、「この中でバスケットが一番うまいのは誰やろう?」と、関西出身の根木さんが親しみやすく子どもたちに問いかけます。子どもたちは「根木さーん」と答えます。
今度は「僕に障がいがあると思う?」と聞きます。すると「ないー」「ないよ」という答えが返ってきます。
子どもたちはこんなにバスケットボールが上手な根木さんに障がいがあるなんて思ってもいません。
「じゃあこうやって友達になったから、一緒に給食食べへん?」「食べるー」「君らの教室は何階?」「3階」「じゃあ後で教室行くからエレベーターの場所教えておいてな」「えー、エレベーター、ないな…」「階段だと僕は3階に行かれへん」「そうか、階段じゃ、根木さんが上れない」「そうやな。みんな、障がいはどこにある?」「階段!!!」
パラスポーツの交流イベントや体験会では、いろいろな場面が気付きになります。根木さんは、車いすバスケで子どもたちを魅了し、そして障がいについて気付く機会をつくり出しているのです。
障がいは「障がい者」と呼ばれる「人」にあるのではなく、「階段」にあるのです。車いすに乗った根木さんと子どもたちの間には階段という「障がい」がある。障がいは「人」にあるのではなくて、「社会」にあるのです。
大人は初めてパラスポーツを見たときに、こう思います。「(障がいがあるのに)すごい、(障がいがあるのに)かっこいい」
でも子どもたちにはカッコ内の言葉はありません。イベントの後に何人かの子供に話を聞きました。みんな「かっこいい!」「すごい!」と笑顔で答えました。
パラリンピック成功を目指して、パラスポーツを広めること。それは、日本の社会を共生社会へと変えることです。そんな大きな役割をこれらの事業は担っているのです。
<伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>